第6話 強さの条件
「くっ…!」
チェンジャーはリグズに立ち向かうが
「おいおいしっかりしなせい。こりゃあもう終わっちまうぞ〜」
「黙れぇー!」
ガン!と剣と棍棒がぶつかり合う鈍い音が辺りに響き渡る。
「やはりサルはサル。戦いにおいてもそう、最適解をただ猿真似しそれを小手先で僅かに変え我を出そうとすることの何と多い事でしょうか。」
クランボは涙を流しながら語る。
「嫌いだー………付喪神をここまで嫌いになったのは初めてだよーーっ!」
チェンジャーは精一杯の力を振り絞りリグズに剣を突き刺す。
「そん………な!」
無情にも刃はリグズを刺すどころか空を切ったのみ。直前にリグズがチェンジャーの胸をクランボで押したからだ。
骨ごと内臓を潰されたチェンジャーは口から大量の血を吐き出しながら吹き飛ばされる。
それでも尚地面を這い戦いを挑もうとする。
「まだ…死んじゃ………地獄で……?え…..?」
(何で死んじゃ、いけないんだっけー?確かボクは……)
チェンジャーは何故自分が死んではいけないのか。
死にたくないと思っていたのかを忘れていた。
自分は元々地獄で何かをしたかったのか、必死で自問自答するが何も見えてこない。
(ここ最近付喪神を壊す事しかして………ないやー。)
ただただ目先の快楽を求め儚い付喪神の命を破壊するだけ。
そんな走馬灯もリグズに頭蓋骨を砕かれた事で消え去ってしまった。
リグズはチェンジャーを倒したあとその場で膝をつく。
「リグズ様、大丈夫ですか!?」
クランボが声色を変えて尋ねるが
「いや……最近…太りすぎて……ちょっと動いた……だけで……ヤバい…ヤバい………」
リグズはフーフーと荒い息を吐きながら言う。
汗が滲んでいる地面を見てクランボは
「……今日からダイエットしましょう。私も心を鬼にしてサポート致しますので。」
はりきった様子で語る。
「むぅ…………!そっかあ……」
リグズは目を瞑りながら唾を飲み込んだ。
「ガードルさんだっけ?話が分かって助かるよ〜!」
ユーザはレジスタンスのアジトの一室でガードルにネイションと怪人達と共に超常大陸に来た付喪神の奴隷を解放したことを説明した。
部屋には円卓が置いてあり、ユーザ、ガードル、ネイション、キンノミヤとその従者達がそれを囲んでいた。
「ユーザさんには、今まで本当に本っ当に助かれてきました。感謝してもしきれません。」
そう切り出すと自分が今までどれだけユーザに助けられたのか、ユーザの事を過剰に持ち上げながら早口で説明し始めた。
「そう………なんですね?」
「そうなんです?どういう事ですか?」
苦笑いをする歯切れの悪いユーザにガードルはやや違和感を覚えた。
「オッホン!ガードルさん聞いてくれ。ここにいるユーザでありユーザではない。」
「へ?」
「実はその……」
わざと咳払いをしてネイションが皆の視線を自身に向けさせ、共にユーザの状況について説明し始める。
「それは….本当なんですか?」
ガードルは信じがたいという表情をユーザを見た。
「そうですね……ネイションと説明した通りオレはこの世界の人間ではないんですよね………はい。」
ユーザは作り笑いをしながら言う。
(軽いノリで言うことじゃねぇと思ったけど……)
ユーザは目だけを動かし周りの反応を伺う。
(ミスったかな………?)
円卓の周りには微妙な空気が渦巻いてしまっていた。
「本当って……ガードルさんよぉ。」
(キンノミヤ?)
キンノミヤがやや呆れた様子で沈黙を破る。
ユーザ達は彼の言葉に耳を傾ける
「アンタさぁ、ユーザっていうこの男に感謝してもし切れないみたいな事をついさっき言ってたのに裏切るのか?」
「えぇ!?裏切るって……そんな…」
ガードルが狼狽える。
「だってそうでしょ?さっきまで鼻息荒くして語ってたろ。それともひょっとして、騙ってたのかい?」
「おい、いきなり話が飛躍しすぎてやしないかい?今行ったのはかなり荒唐無稽な話だぞ?」
ネイションも彼の言葉に違和感を覚える。
「だから、さっきまでユーザユーザうるさかった人間が『本当?』って本気の表情で言いますか?薄情な人間と言ったらそこまでだけど。」
薄情という言葉にガードルの堪忍袋の尾が切れた。
「さっきから何なんですか貴方は!訳も知らないで勝手な事ばかり!」
立ち上がり机を叩いて声を荒げるが、キンノミヤはそれを一切表情を変えず眺める。
「じゃあ信じられなくても一言目に嘘でもいいから同意してあげましょうよ。こんな世の中だ。みんな心削ってますけど、それを倫理観も価値観も違って当然な異世界人に強いるのは酷だ。そもそもあの男。手柄を立ててきてる。それ位言ってやっても……バチは当たんないんじゃないかなぁ。」
「あぁ…………」
ガードルは彼の言葉を聞いてさっきまでの勢いの欠片も感じられない程に萎縮する。そしてユーザの元に行き顔を床に押し付け謝罪する。
「すいません。配慮が行き届いていなかったですね。こんなだから………私は………」
自己嫌悪に陥り声が潤み出す。
「顔をを上げてください!アイツってば金の事になると良くも悪くも思い切りいい奴なんで、あしらえば良いんですよ。」
するとキンノミヤがユーザを見て目を細める。
「お前、初対面なのにやけに馴れ馴れしくて変な気分だ。知り合いだったのか?」
「まぁね。オレ、アンタの経営する店で働いてたんだ。付喪神専門のなんでや屋みたいなトコでさ。」
「付喪神の何でも屋?まったく想像できないし、オレはお前みたいなヤツを雇おうとも思わないんだが。世界が違えば考え方も違うものなんだな。」
(確かに。オレの知ってるキンノミヤはこんな表情せずに割と受け入れるしな。)
キンノミヤは口では言うもののそれほど納得していなかったの表情でユーザに読み取られたがユーザは敢えて言わなかった。
「あとアレだ!お前に聞きたかったけど食料問題!オレは近くの店から保存食の違い根こそぎ持ってきたがお前らはその辺考えてんのか?」
キンノミヤの言葉にネイションがニヤつくがユーザは狼狽えた。
「そっかヤッベ!確かにあんだけの人数連れてきたのに食い扶持の事頭から抜け落ちてた!」
「そうですね。我々も食料問題については胃が痛みます。それにあれだけの人数がいきなり来ればトラブルも避けられない……問題は山積みです。」
ガードルも苦虫を噛み潰した表情になる。
「皆さん皆さん。オレを忘れちゃいませんかってんだ?」
ネイションがわざとらしく深みのある笑みを浮かべ言う。
キンノミヤとガードルが訝しげに見つめる中
(おぉ、ネイションがいつも知ってる時の調子になってきた。やっぱネイションは女々しくしてるよりどっか偉ぶってるヤツなんだよなぁ。)
と、謎の目線で事の成り行きを見守っていた。
「怪人を舐めてもらっちゃ困るぜ。こっちこっち!」
「なんか甘い香りが凄いな。なぁ雅之。」
ユーザが懐に話しかけるが返事がない。
「アレ?まいっか。」
会議室を出てネイションは一向を手招いた先には
「これは………」
従者とガードルは息を呑む。隣の部屋に天井まで届く程の大量の野菜や果物が無造作に積まれていた。
作物は色もよく、香りが強い。
見るからに美味しそうに見えた。
「食べてみ?」
ネイションがブドウを差し出しキンノミヤが取ろうとすると
「まず我々が毒味を。」
従者達が先に食べ始めた。
「どうだ?」
「問題ないかと。」
従者達の許可が降りたので他の3人もブドウの粒に手を伸ばす。
「おぉウマ!」
(もしかしてオレの世界のネイションもこの味を味わってたのか?羨ましい奴め!)
ユーザが真っ先に反応する。
ガードルは無言でブドウの甘味を味わっていた。
「確かに美味だ。これだけの質のものを、あとどれくらい作れるんだ。」
「部下の怪人達が作ってるんだがその日の体調による。でもぉ……最低でもこの部屋7個分はイケるな。」
「最低でか………」
「お前、世界が平和なら全部買い上げて青果事業立ち上がてたのにって考えたろ?」
ユーザがわざと言うとキンノミヤがあからさまに嫌そうな顔をしながら
「やっぱりお前を部下にはとらない。」
と早口で言う。
(図星かよ!)
「あぁでもコレ、オレ達のおかげって言わないように。」
ネイションが言い出しユーザが驚く。
「何でだよ!人間達と何があっても協力するって」
「物事には段階がある。まだオレ達は迫害の身だ。ガードルやキンノミヤが異常なんだ。」
「じゃあどうすれば……」
「今までの10倍、人間の為に働くしかないだろうな。」
そんな事を言っていると侵入者を告げるサイレンが鳴り響く。
「早速10倍働く時が来たぞ。」
「あぁ。」
ユーザとネイションは真っ先に部屋を飛び出した。