第5話 奴が呼んだ奴
「いただきます。」
5人の男達が食卓を囲み食事を始める。上手くも不味くもない食事を、5人は他愛もない会話をしながら食べていた。
「うぉーっすっげー!!本物の人間だー!」
生まれたばかりの子供の付喪神が食い入るように彼らを見つめていた。食事をしている部屋は他の飼育動物同様、囲われておりある一面がガラス張りで見ることが出来るようになっている。ここは動物園の『人間』を飼育しているコーナーだ。
5人は多くの付喪神の視線に構う事なく。まるでその場に自分たちしかいないかのように振る舞う。
「さて、こちらが勝ち目が無いにも関わらずかつて我々に歯向かった愚かな生き物『人間』の飼育コーナーとなっております。今は丁度お食事の時間のようですね。」
ツアーガイドをやっている付喪神が人間の説明をし始める。
「人間という生物は唯一他の動物と違い、自分達で物を作り出す知能を待っています。付喪神に奴隷になる方が幸せになれる事を理解できるほどの知能は無かったようですがねー!」
ガイドは説明の度、逐一人間を貶す。説明を聞いている付喪神達もそれに大いに賛同する。
「今、食事が終わったようですよ!人間達に手を振ってあげましょうか?」
付喪神達は食事を食べ終えた5人の人間に手を振っていた。
食事を終えた5人は控え室に移動する。ある地点に行くと無言を貫いていた5人のうち1人がとても小さな声で口を開く。
「……今回もダメでしたね。」
「コラ、まだ黙っておけ。聞かれたら面倒な事に」
「なるってのはどういう意味だぁ?」
突然の背後から大声がし、5人の動きは止まる。
「なぁサル?ホンッッッッッットに分からなかったんだ?教えてくれよサル、何が面倒なんだ?なぁ!なぁあ!!なぁ!!!サルゥ!」
話しかけてきたのは動物園の職員をしているモップの付喪神で、奴隷に自分を持たせていた。
「なぁなぁなぁ!!!教えてくれよ!!」
モップはわざと大声で捲し立てながら尋ねる。そしてずっと沈黙の中1人が声を出す。
「いえ、私共は現在ここを通った際、全く声を出しておりません。」
するとモップの付喪神が柄尻で、喋った男の腹を突く。「サル、跪け!」と叫びながら男に膝をつかせる。
「テメェつまりオレが間違った事言ってるって言いてぇのかアァン!」
モップは怒りのままグリグリと毛の部分を男の頭に押し付ける。そしてずぶ濡れの頭部を不必要な何回も叩いた。
「なんか言ってみろよ!」
「そらみ」
「何口開いてんだよゴラァ!!」
理不尽なことを言いモップの怒りはエスカレートする。
「ホラさっさと口開けよサル!」
「空耳でございましょう。なのでゴッシュ様に何かが聞こえたのは事実なのです。」
「ふぅん………今日は見逃してやるよ。次から調子乗んなやサルゥッ……ヴァッ!」
奴隷が背後を向いた瞬間ゴッシュが突然苦しみ出す。
そしてゴッシュの体は横に真っ二つになってしまった。跪いた男は特殊な技能を用いて悟られぬ様にゴッシュの体に刃を入れていたのだ。
「死ぬ直前にオレの名前教えてやるよ。オレはサルじゃねえ」
突然の事に呆然とするゴッシュに対して男は
「キンノミヤだ。」
そう言いながら顔のある部分を踏みつけ、絶命させてしまう。
「お前ら、猫かぶってんのもこれで終わりだ。この、付喪神達にケージの中で飼い殺しにされてる間、オレ達の隠密スキルは飛躍的に上昇した。」
キンノミヤ達はゴッシュを倒した勢いでそのまま職員の控え室に向かいその場にいた付喪神を全て破壊した。
「意外とウメェなこれ!」
「ホント、飯食った後だけど全然食える!」
「物の癖にイイもん食ってますね!」
「そもそも物がメシ食うってなんなんだよ。」
キンノミヤ達は控え室に置いてあった弁当を貪っていた。
「キンノミヤ様、遂にやっちゃいましたね。」
「ああ、やっちゃったな。」
5人は2個目の弁当に手を出しながら話していた。
「でももう戻れない。やるからには徹底的にやるぞ。いずれ戻る人間社会で少しでも良いポジションを保つには今頑張るしかない。」
肉を口に詰めながらキンノミヤは語る。
「確かに、英雄扱いでオレ達一生遊んで暮らせますよ。」
部下の1人が調子に乗りながら言うと
「そう甘くないぞ。高い立場に行くには多くのリスクを孕む事と同義だ。オレ達の邪魔をしようとする者は即刻始末できるように常にアンテナ張ってないとだ。」
キンノミヤはそう言いながら部下の1人をたしなめる。
やがてキンノミヤ達は10個前後あった弁当を全て平らげてしまった。
「ちょっと食い過ぎたかな?まぁいいか腹が減っては戦はできぬからな。お前ら行くぞ!」
「御意!」
その各紙で日号外新聞が発行された。見出しは
「動物園で飼育の人間脱走の末無差別殺戮決行」
「人類の陰謀か 動物園で史上最悪のテロ発生」
「動物園で大量殺戮 犯人行方不明」
キンノミヤの破壊行為は世間を駆け巡る。残った奴隷になっていない人類が組んだレジスタンスにもそのニュースは飛び込んできた。
「ガードルさん、シェルターはあの事件でもちっきりですね。」
「そうですね。」
ガードルに1人の職員は言う。
レジスタンスの隠れ家である地下シェルターでキンノミヤは付喪神に一矢報いたヒーロー扱いだった。そんな中シェルターに警報が鳴り響く。
「緊急事態発生!緊急事態発生!何者かが警戒区域に侵入した模様!」
ガードル達はすぐに対策本部室へ向かい状況確認をする。その状況が信じられなかった。
その頃警戒区域の中ではユーザとネイションが揉めていた。
「なぁネイション!コレヤバいんじゃねぇのか!なんかウーウー鳴ってるぞ!」
「お前が怪人の誤解を解くために行こうって言い出したんだろうが!」
「あーこんな事になるなんて思わなかった!」
ユーザとネイションはネイション派の怪人達と兵士として扱われていた人間の奴隷100人あまりを引き連れてシェルターの前まで来ていた。
ユーザが頭を抱えていると
「キンノミヤ様、怪人ですぞ!」
「いや待て、何か様子がおかしい。」
キンノミヤ達も警戒区域に入っていた。こちらも人間の奴隷を何十人か引き連れている。
「あーどうすれば………って!アレキンノミヤじゃん!おーい!キンノミヤー!」
ユーザはキンノミヤの姿に気付き手を振る。
「お知り合いですか?」
「あんな奴知らん。」
キンノミヤは首を傾げた。
「あれ?こっちのキンノミヤはオレと面識ないのか。まぁ別世界だしそういう事もあるか。」
ユーザはキンノミヤ達も奴隷を引き連れている事に気づく。
「おいそこの人間!」
「オレのことか?」
キンノミヤはユーザに尋ねた。
「そこの怪人は何だ?怪人とはどういう関係だ。」
「キンガルイス倒すため協力してんだよー!」
ユーザのキンガルイスという一言にキンノミヤは少し記憶を探る。
(キンガルイス?確か……どこかで聞いた事があるような………)
「そのキンガルイスとか言うのは分からんが人間を引き連れてる辺り、オレ達の思ってる怪人とは違うようだな。」
「まぁ……そうだな。少なくともネイションを含めコイツら人間を襲ったりしない。もし少しでも危害を加えたら襲ったりしたらオレが全員倒す。」
ユーザはネイションよ方に振り向き
「ネイション、いいよな。そのくらいの覚悟はあるんだろな?」
ネイションは当然とも言わんばかりに頷き、他の怪人達も同様に頷く。
その姿を見てキンノミヤは
部下に書き換えない程の声で耳打ちする。
「もし何かあったら、すぐ飛ぶぞ。分かったな。」
「御意。」
するとシェルターの隠し通路からガードルらレジスタンスか武器を持ってやって来た。
「みんな待ってくれ!まずオレ達の話を」
ユーザが説明しようとすると
「ユーザさん?」
「え?オレを……知ってる?」
ガードルがユーザの顔を見るなり目を見開き瞬く。後ろのレジスタンスからもどよめきが起こる。
(とりあえず、話は聞いてもらえそうなのか?)
ユーザはひそひそと話し合うレジスタンス達を眺めとても緊張していた。