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第1話 物に溢れる世

そこには生気という概念は存在しなかった。

「オラッ!一ミリでも下げるなって言ったよなぁ?テメェオレ様を誰だと思ったんだ!指と腕に力を込めオレ様を掴み持ち上げることも出来ねぇのか、この無能が!」

指輪の付喪神が使用人として扱っている奴隷の人間を怒鳴っていた。指輪は自分の体の大きさに不釣り合いなほど大きく、様々な装飾が過剰に施されたリングスタンドに鎮座し、奴隷はそれを空高く持ち上げていた。奴隷は痩せ細っていて肌に艶もなく目に輝きが無かった。衣服だけは異常な程に高品質の布が使われている。

「……申し訳ございまガバァ!」

奴隷が謝罪していると後ろに護衛をしている槍の付喪神に背中を殴られ倒れる。棍棒を握る奴隷も同じく生気が無かった。

「傀儡の分際でベラベラ喋ってんじゃねぇぞゴラァ!テメェの代わりなんて幾らでもいんだよオォン!次やったらぶっ殺すからな。」

「……………」

奴隷は何も言わずにまたリングスタンドを空高く持ち上げる。その姿を奴隷の来ている衣服の付喪神クスクスと笑いながら見ていた。だがそれに対し奴隷は何の反応も示さない。殴られ事に対する痛みを訴える事もなく、貶されることに対する傷心もなく、嘲笑に対する羞恥もなく、ただ機械的に主である付喪神の命令に従っているだけたった。反応してはいけないし反応するほどの感情も擦り切れているからだ。だがこのような光景はさほど珍しいものでもなかった。世界のどこかしこで、何かしらの付喪神がこのような怒声を飛ばしていた。


この世界に対し異を唱える物は陽の光を浴びる事は難しかった。

「残りの心身存命人類は9984人。ついに1万人を切りました………」

付喪神の奴隷とならず文明的、文化的な生活を最低限送れている人類の数が1万人を切った瞬間だった。

「ガードルさん。我々は……どうする事も出来ないのでしょうか。」

人類軍のリーダー、ガードルにそう呟く男の声はとても弱々しく、今にも泣きそうになっていた。

「弱音を吐くな。矢面に立ち鼓舞する我々がそんな弱気になってどうする?」

「そりゃなるに決まってるだろ!」

机を叩き顔を真っ赤にしながら男は叫ぶ。

「どれだけ我々が策を講じて、皆を鼓舞して立ち向かって傷を舐め合ってても、数字はウソをつかない!付喪神によって生きる事を奪われた人間は後を経たない!それに怪人の脅威だってある。ガードルさん!理想論ばかり語ってないで少しは現実を見たらどうです?何が心身存命人類だよバカバカしい!ふざけたネーミング!ここにいる人達は貴方の理想論で命を削る為に生まれ出来たんですか?違うでしょ!貴方のおかげで、救われた命は無いんだ!」

男はそこまで言い切った後にその場に崩れ落ちまるで赤子のように泣きじゃくり出した。


ガードルはそれを見て拳を握り締める。拳からは赤い物が滴る。そして心の中で問いかける。

(ユーザさん………私はどうすればいい。貴方が生きた世界を……付喪神と人間が手を取り合って暮らす世界を………私は作れるのでしょうか………)

そしてガードルは静かに涙を流す。


時を同じくして、超常大陸コダイ砂漠の海岸沿い。

1人の男が気を失って眠っていた。

「うーん……よく寝たなぁ…ん?…何でここにいんだっけ?えと、確か誰かに頭をどつかれたような…」

ブツブツと言ながら自分の状況を確認しようとしている男の目と耳に何かが止まった。向こうに何か落ちているのが見える。

「ん?何だかすげえ叫んでるような……」

男が聞いたので呻き声ではなく叫び声だった。近くに寄ってみるとチリンッという鈴の音色のような物も聴こえる。

「………え?どういう事?」

音と声の正体は物体だった。物体は1人でブツブツと喋り込んでいた。


「ったくよぉーあのクソ神!大体こういうのってさぁ、レベル999だのSSSランクだのチートスキルだの持った冒険者か貴族辺りになって悠々自適な異世界ライフとかじゃないの!?なんでベル?それも何故自転車の?解せぬ。理解できぬぅ!」

「すいませーん。」

「ギャッ!」

男は鈴に恐る恐る声を掛ける。突然声をかけられた鈴は驚き恐怖で体を震わせる。

「もしかして、喋ってんのアンタ?」

「えぇ?そっそうですけど………たったた食べないで!」

「いやっ食べない食べない!いや、オレはなんか声がするから来てみたんだけど……大丈夫?」

「へ?は?………ア……大丈夫っす。」

鈴は落ち着きを何とか取り戻す。

「オレはユーザ、アンタの名前は?」

ユーザと名乗る男は自分に害意がない事を証明する為手を上に向けなるべく笑顔で自己紹介する。

「え?名前?上野雅之。あの……雅之呼びでいいです。

「別に敬語じゃなくてもいいよ。そっかマサユキか。よろしく……って待って!前にもこんな事あった気がする………!」

「どういう事?」


このユーザ2回目のコテコテ?な出会いは鈴のようだ。




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