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流星群の下で囁く愛

作者: カケル

幾星霜もの流星群。

それが地球へと到来してきたのは一か月前。

NASAの発表により世界が混乱の渦へと巻きこまれた。

宇宙のかなたより飛来する惑星群。

それが今日をもって地球に衝突し、地球の文明が滅ぶというもの。

「なあ……」

「うん~?」

「いや、何でも」

「ふーん」

彼女と二人。車で移動していた。

行先はきじひき高原パノラマ展望台。

そこから眺める街の景色が最高だった。

別々の孤児院の出で、境遇が似た者同士。いつの間にか恋人同士になっていた。

「最後は展望台から星を見ようなんて粋なこと言うわね」

「俺とお前の思い出の場所だろ?」

「素敵な考えね。あなたらしくてよくってよ」

「馬鹿にしてるな?」

「あら、いつもの事じゃない。私よりも頭の悪い信孝君?」

左手で彼女の頭を叩いてやろうとすると、軽くあしらわれる。何度も叩こうとして、ついぞ一度も彼女の小さな頭を攻撃することは叶わなかった。

「あなたの行動なんて全てお見通しなのよ」

「……」

ふふんと笑う真希。

隙をついてもう一度手を出したが、今度は掴まれて。

「てい」

わき腹をつつかれた。

身体がぴくッと反応して、ハンドルを取られる。

左右に揺れて、体勢を立て直す。

「おま、ふざけんな」

「別に構わないでしょ? 運転しているのはあなた。すべての責任はあなたにあるの」

「お、恐ろしい女だ」

「そんな女の虜になっているあなたは幸せ者ね」

「へいへい」

急ブレーキをかけて、彼女を驚かす。

「……あなたのせいで胸が潰れたわ。どうしてくれるの」

「潰れる胸もないくせに」

一瞬にしてはたかれた。

気持ちの良いビンタの音が車内に鳴り響く。

「てめっ」

振り向くと、その手には鞄から取り出したボールペン。

「首から黒い液体を流すのは嫌よね?」

「……はい、すみませんでした」

その恐ろしい殺気を感じて。

俺は速攻で謝った。

言って良いことと悪いことがある。

俺は後者を口にした。

南無南無。

「その股の下についている棒で私を満足させたことないくせに」

目を点にして再度振り向く。

「……え、マジ?」

ハンドルを取られたが、すぐに戻す。

「そうねえ、どっちかしらね?」

目を細めてそう言う彼女。

「嘘よ。冗談に決まってるじゃない」

フッと笑う。

「……冗談に聞こえないのは、日ごろの行いのせいじゃね?」

今度は頬をつねられた。

災難である。

これからを考えると幸せな災難だが。

展望台の駐車場に到着した。

車は一台もない。

職員のそれすらも。

「静かで良かったわ」

牛や馬の姿もない。

完全に俺たち二人だけ。

「運転疲れたでしょ、休憩所に入りましょ」

そう言って、彼女は休憩所の戸を開けて入っていく。

俺も続いて中に入る。

閑散とした室内。窓際のテーブルソファに腰かける彼女の横に座った。

窓の外から見える函館を一望できる。

良く晴れた日だ。奇しくも雲一つない空だった。

「さむっ」

「誰もいねえんだし、暖房もそりゃついてねえだろ」

少し厚着をした俺たち。

そろそろ十二月だ。

「夜景を見れないのが残念ね」

流星群が到達するのが今日のお昼ごろ。

その時間をもって、この地球から九割の生命体が絶滅する。

「そうだな。夜ドライブはいっつもここに来てるもんな」

「ここからの景色がもう見れないなんてね」

「ま、死んでも大丈夫だろ。一緒に天国にでも行こうや」

「あなたと同じ場所に行くなんて反吐が出る」

「俺、なんか悪いこといった? そんなに嫌いになるようなこと言った?」

「自分の胸に訊いてみなさい」

「全然心当たりがねえよ」

「自覚のない人なのね。だから私以外にモテたことが無いのよ」

肩を落とすほかなかった。

「お前の毒舌は死んでも治りそうに無さそうだな」

「あなたも大概口が悪いわよ? 冗談を言っていてもそれが結構ぐさりとくる言葉を述べていることに早く気付いた方がいいわ」

「笑わせるつもりだったんだが?」

「面白くもなんともないわよ。さっきのあれ、ほんと不愉快」

頭を下げる他なかった。

「ま、あなたがどう思っているかだものね。ありがとう、笑いを提供しようとしてくれて」

「……お前、本当は俺のこと嫌いだろ」

「あら、嫌いならあなたとこんなところに来るわけないじゃない」

「……あっそう……」

「そういう所じゃないかしら?」

「ん?」

「素直じゃないところ」

「ほっとけ」

そっぽを向くと、彼女は俺を見て鼻で笑った。

「何か飲むか?」

自販機を指さし。

「微糖のコーヒーなら何でも」

「はいよ」

缶コーヒーを二つ。

俺も微糖だ。

席に戻り彼女に渡す。

蓋を開けて飲む。

開けるタイミングと飲むタイミングが全く一緒だった。

「私の真似しないでくれる?」

「偶然の一致だろ。それならお前が俺の真似したんだろうが」

「あら、自分の非を認めないつもり? 何でもかんでも私の真似をするあなたが」

「真似なんてしてねえ」

「今日の服装」

上下ともに同じ色の服装。

来ている上着のブランドも同じ。

「ストーカーね」

「だから偶然だって言ってるだろ。つかこの上着、お揃いにしようってお前が言い出したモノじゃねえか」

「あら、そんな一年前の十一月十二日の話なんて覚えていないわ」

「お前って無駄に記憶力良いよな」

「だから言ったじゃない。私よりもおつむの悪い――」

「だあああー、解った解った。俺はお前よりバカですよおだ」

コーヒーを一気に流し込む。

「幼稚ね」

「幼稚で悪かったな」

「そういう所が可愛いんだけれど」

「んんッ」

喉がつかえる。

「お前ってホント不意だな」

「あら、私はあなたと違って素直だもの。思ったことは口にするタイプよ。それで問題になったことはないし」

「良いよなあ。頭のいい奴って」

「でも、表情は素直よね。解りやすくて。ほら、その顔」

「……な、なんだよ」

ずいっと顔を近づけてくる真希。

俺は身体を逸らして距離を取ろうとする。

だがその分真希は距離を詰めてきて、俺に覆いかぶさるように上から覗き込んできた。

「ほら、私に寄られて嬉しがってる」

「そんなわけねえだろ」

「じゃあどうする? このままキスする?」

吐息のかかる距離。

彼女は髪を耳に掛けていた。

俺は無言のまま。

その距離を近づけて。

パシャリ。

そして俺から離れる彼女。

「これどう? 良い顔してるじゃない?」

そして写真を見せてくる。

惚けた顔をして彼女に口づけしようとする俺と、愉しそうに笑う彼女の顔を。

「……ほんとめでたい奴だよ」

「誉め言葉として受け取っておくわ」

保存ボタンを押し、その写真を見てはくすくす笑って。

「よせって」

そのスマホを奪おうと手を伸ばすも、彼女は逃がすように腕を伸ばして、それを追うように俺も手を伸ばし。

「「あ」」

ソファに転がった。

真希が下。

俺が上。

少しの間見つめ合った。

「……何?」

「……可愛げねえの」

何の反応もなく、じっと見返してくるだけの彼女を。

「キスの一つや二つでもしてみなさいよ。今の私、身動きが取れないのよ?」

「っ」

彼女の筋力は言うなれば弱い。

この状態から俺を押し返すことも難しいほどに、非力だ。

「ほんとムカつくなお前」

散々言われ続けて俺も我慢の限界だった。

思い切り口づけしてやった。

舌だって強引に滑り込ませた。

互いの舌が絡み合う。

「……ぷはっ、もう少し優しくしなさいよ」

「お前が喧嘩吹っ掛けて来たんだろうが」

「単純な人ねえ」

「……」

だがそこで気づく。

少し震えている。

「どうした?」

「……何が?」

「震えてる」

「……そうね」

そう言う彼女は外に視線を向けていた。

見えてくる流星群。

空一面を覆う無数の隕石が群がっていた。

「……一緒に天国に行ければいいのにな」

「言ったでしょ。反吐が出るわ」

「そんな寂しいこと言うなよ」

目を逸らす彼女。

その眼は若干ながら潤んでいる。

「泣いてるのか?」

「泣いてないわ。あなたとのキスがひどすぎてね」

「やっぱお前、俺のこと嫌いだろ」

「いいえ、大好き。超好きよ」

そう言って、彼女は俺に抱き着いてきた。

「……」

「……」

「なんか言えよ」

「あなたこそ何か言いなさい」

「言ってんじゃん」

「言ってるうちに入らないわ」

「……俺も超好きだ」

「さむっ」

「おおいっ!」

何も言えねえ。

備え付けの時計を見ると、そろそろお昼時。

外の流星群がますます近づいていた。

「ねえ」

「なんだ?」

「……怖いわ」

「俺もだ」

ソファに起き上がりながら彼女を座らせる。

もう一度彼女を抱きしめた。

「死ぬってどんな感じなのかしら」

「……虐待されたのに比べたら全然じゃね?」

「……放置されてたのに比べたら全然かもね」

俺はネグレクト。

彼女は虐待。

似た者同士の恋患い。

「痛いのかしら?」

「寂しいんじゃね?」

ぎゅっと互いを抱きしめた。

もうすぐそこにまで迫っている。

「次が合ったらいいな」

「なら、次は何に生まれたい?」

「そうだな。また人間がいいかもな」

「私は神様がいいわ。あなたを見守っていてあげる」

「ほんと上から目線だな」

空が赤くなる。

「ねえ」

「うん?」

一息おいてから、彼女は力いっぱい抱きしめた。

俺もあらん限りで。

互いのぬくもりを感じとるように。

互いの感覚を忘れないように。

「愛しているわ」

初めて言われた言葉。

心地よい彼女の声が脳内に響く。

「ああ、愛してる」

俺も始めていった言葉。

幸せだった彼女との時を思いだし。

涙を流し。

けれど安心感に満たされながら。

「今までありがとうな」

「ええ、ありがとう」

感謝を述べた。


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【集】我が家の隣には神様が居る

こちらから短編集に飛ぶことができます。

お好みのお話があれば幸いです。


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