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身代金


「くそっ……ヘリックのくせに……」

ケルセウスはギリリと奥歯をかみしめて悔しがるが、やがて笑みを浮かべた。

「ふっ。いい気になっていろ。僕は貴族の跡取り息子だ。そのうち父上がきっと助けてに来てくれる」

そう負け惜しみをいうケルセウスに、ヘリックはニヤリと笑って告げる。

「なら、お前を人質にするまでさ。さて、お前が頼りにしているパパは、どんな反応をするかな」

そういうと、手にはさみをもってケルセウスに近づくのだった。


数日後

ジュピタ―子爵の元に、傷ついた騎士たちが戻ってくる。

「なんだと?討伐軍は返り討ちにあっただと?」

「はっ。ケルセウス様は、土星城の主ヘリックの捕虜になりました」

解放された騎士たちは、悔しそうに手紙を差し出した。

「なんということだ……それで、貴様たちはなぜ死ぬ気で戦ってケルセウスを取り返そうとしなかったのだ!」

「その……私たちは無能なハーピー族に、高いところから落とされて……怪我をしてしまったので……」

責められた騎士たちは、責任転嫁をする。それを聞いたハーピー族の若者たちは、烈火のごとく怒った。

「冗談じゃない。お前たちが放せっていったんだろうが」

「ええい!だまれ!ハーピー族の分際で!」

「なんだと!勝手に怪我をした負け犬の癖に」

騎士たちとハーピー族の若者たちは、延々と言い争いを続ける。

「ええいッ!双方ともだまるがいい」

ついに我慢できなくなったジュピター子爵は怒鳴りつける。そして、次はハーピー族に問いただした。

「貴様らは無傷だったはず。なぜ戦わなかった」

「おそれながら、われらが姫であるエウロス様が捕虜になってしまいましたので……」

「この役立たずどもが!」

腹立ちまぎれに殴りつけて、子爵はいらだちを発散させる。それから不機嫌な顔をして手紙を開いた。

その中にはツルツルハゲになったケルセウスの絵と、緑色の髪の毛が入っていた。

「お前の息子であるケルセウスとハーピー族の姫、エウロスを捕虜にしてある。解放してほしければ、身代金を払うように」

使者が持ってきた手紙には、それぞれ金貨一万枚ずつ払うように書かれていた。

それを読んで、子爵はうなり声を漏らす。

「ケルセウスとの身代金は払おう。だが、ハーピー族の女については知らん」

「そんな!我々はあなたの命令で参加したのに!」

使者が抗議するも、子爵は相手にしない。

「わが家が出せる金には限度があるのだ。ほら、さっさとケルセウスを取り返してくるがいい」

そういうと、金貨一万枚が入った袋をハーピー族の若者に押し告げる。

彼らは悔しそうな顔になりながらも、しぶしぶ土星城に戻っていくのだった。


土星城に、ハーピー族の若者たちが戻ってくる。

彼らからジュピター子爵からの手紙と身代金を受け取ったヘリックは、憐れみの視線をエウロスに向けた。

「ジュピター子爵は君の身代金の支払いを拒否したぞ。煮るなり焼くなりすきにしろとのことだ」

「……そうですか」

それを聞いたエウロスは、予測していたように平静に聞く。そして改めて、ヘリックの前に跪いた。

「覚悟はできていました。私を好きにしてください.。私はあなたの奴隷になります」

「ひ、姫様……」

そんな姿を見て、ハーピー族の若者たちは悲しそうになる。そしてヘリックの前で土下座した。

「少しでいいので、お時間をください。族長に申し上げて、身代金を支払ってもらいます」

しかし、それを聞いたエウロスは首を振った。

「わが一族に金貨一万枚も支払う余裕などありません。それに、私たちはヘリック様から見ればまぎれもなく侵略者。敗北したからには、その長である私が責任をとらねばならないのです」

リーダーとしての責務を全うしようとするエウロスに、ヘリックは感心してしまう。そして改めて疑問に思っていたことを聞いた。

「そもそも、お前たちはなぜジュピター子爵なんかに従っていたんだ。その訳を詳しく教えてくれ」

「はい。お話させていただきます」

エウロスは静かに彼らの事情を話す。神々同士の対戦『ギガントマキア』では、風の神ゼフィロスの眷属だったハーピー族は、ティターン神族の側に立って人間たちと戦った。

その後、ティターン神族は破れ、ゼフィロスは『結晶洞窟』に封じ込められてしまったという。

その洞窟は封印の役割を負ったジュピター子爵家の一族しか入ることができず、神を人質に取られてしまったハーピーの一族は泣く泣く従うしかなかったのである。

話を聞いたヘリックは、彼らに同情してしまった。

「そうか……お前たちも苦労しているんだな……」

ヘリックがそう呟いた時、床が輝き、彼等の前に女神ガイアが現れた。

『風の民は我が土の一族の友。そして風の神ゼフィロスは我が息子。ヘリック、なんとか彼らを助けてあげることはできませんでしょうか』

ガイアの顔にも、エウロスたちに対する同情が浮かんでいた。

女神に頼まれ、ヘリックも決断する。

「なら、俺がその洞窟を攻略して、ゼフィロスの封印を解こう」

それを聞いて、エウロスとハーピー族の若者たちも目に涙を浮かべる。

「ありがとうございます。ゼフィロス様を解放していただければ、私たちはあなたに永遠の忠誠を誓いましょう」

「わかった。なら、案内してくれ。すぐに行くぞ」

こうしてヘリックは、ハーピ族と共にその洞窟に向かうのだった。


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