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エウロス

「まずいぞ。奴らをよせつけるな!」

「わかったよ!「触手」」

木でできた触手が伸びてきて、土星城を覆う。

「うわっ!」

「なんだ!」

翼が生えた人間たちは、触手に追い回されて逃げ回った。

「チッ。だらしがないハービーどもめ。みんな!行くぞ!」

ケルセウスの命令により、鎧を着た騎士たちが地面に飛び降りようとする。

「ケルセウス様。待ってください。この高さから飛び降りたら、危険です!」

「うるさい!」

必死で止めようとする背中のエウロパを振り切り、ケルセウスは地面に向けてダイブする。

「『風圧(ウィンドプレッシャー)』」

地面に向けて風魔法を放ち、落下の衝撃を和られげよぅとする。それによって、けるセウスはなんとか着地することができた。

「みたか!僕の風魔法を!さあ、お前たちも続け!」

ケルセウスの雄姿を見て、他の騎士たちも奮い立つ。

「ええい!放せ!臆病もののハーピーどもめ」

「われら、ジュピター騎士団の勇猛さを見せつけてやる」

背中で支えているハーピー族に対して、そう罵声を浴びせてくるので、彼らは困ってしまった。

「姫様。いかがいたしましょう」

「仕方ないわ。放してあげなさい」

冷たい顔をしたエウロパの命令に従い、ハーピーたちは騎士たちを放り出す。

彼らは土星城に向かって、真っ逆さまに落ちていくのだった。


「うわぁぁぁぁぁ……」

偉そうに言聞かせっていたジュピター騎士団は土星上めがけて真っ逆さまに落ちていく。

「くっ『風圧(ウィンドプレッシャー)』」

騎士たちはケルセウスに倣って風圧魔法を地面にむけて放つが、魔力が弱い騎士たちでは重い鎧をつけた自らのを支えきれず、ぶざまに墜落していった。

「ぐぅぅぅぅぅぅ」

高いところから落ちて、騎士たちは骨折して苦痛のうなり声をあげる。

それを見て、ヘリックは呆れてしまった。

「お前たち、バカなのか?勝手に落ちて怪我をするなんて」

「うるさい!」

ケルセウスは真っ赤な顔になって、槍をヘリックに向けた。

「貴様はヘリック!なぜお前みたいな馬小屋の下男が、この土星城にいるんだ!」

「そりゃ、俺がこのダンジョンを攻略して、女神ガイアを解放したからだよ」

ヘリックがそう答えると、ケルセウスは嘲笑った。

「嘘を言うな。お前みたいな魔法も使えない平民に、そんなことができるはずがない」

「何も魔法だけが力のすべてじゃないだろう。まあ、魔法が有効な力だっていうのは認めるがな」

そういうと、ヘリックは防御魔法『カチン』をまとって戦闘の準備をする。

「さあ、かかってこい。幼いころから散々いじめられてきた恨みを晴らさせてもらおう」

そういって、棍棒を振りかざしてケルセウスと相対した。


ケルセウスは必死に虚勢を張りながら、槍を振りかざす。

「なめるなよ。魔力を手に入れたからって、ただの平民が貴族である僕にかなうと思うか!」

そう叫びながら槍を突き刺していくが、ヘリックにあっさり交わされてしまった。

「遅いな。しかもへっぴり腰だ。どうやらお前は実戦を経験したことがないみたいだな」

冷静にそう告げるヘリックに、ケルセウスの頭に血が昇る。

「貴様!なぜよける!正々堂々と戦え」

「バカかお前は。どこの世界に相手の攻撃をおとなしく受ける敵がいるんだ」

ヘリックはそういって、ケルセウスの槍をひょいひょいと交わしていく。自分の攻撃がかわされるたびに、ケルセウスの心に恐怖が沸き起こってきた。

「くっ!ウィンドカッター!」

どうやっても槍を当てられないので、ケルセウスは魔法で風の刃を作って切りかかる。

しかし、魔法学園の時と同様に、膨大な魔力の壁に阻まれて放った魔法は防がれてしまった。

「くっ……魔法が通じないとは……」

切り札である魔法が封じられて、ケルセウスはさらに恐怖する。そして、ついに一対一での戦いを放棄して、助けを求めた。

「お前たち!僕を守れ!」

そういって周囲を見渡すが、彼が引き連れてきた騎士たちは高いところから落ちたせいで骨折して動けない。

「そんな……残念だな。お前の手下たちは全員役にたたないぜ。自分の力でなんとかするんだな」

ヘリックの言葉に、ケルセウスは絶望する。今まで彼のそばには、常に盾になってくれる手下たちがいた。その者らにヘリックを抑えさせ、自分はただ一方的にいたぶるだけで勝利することができていた。

しかし、今は部下が役に立たず、ヘリックと一対一で勝負しなければならない。その恐怖に、ケルセウスの騎士としてのプライドは挫けてしまった。

「う、うわぁぁぁぁぁ……」

何度攻撃してもあしらわれてしまい、ケルセウスは後ろを向いて逃げ出していく。しかし、へリックはその背中に分けて、容赦なく棍棒を振り下ろした。

「これで終わりだ!」

そういってヘリックが振り下ろした棍棒が、一本の刀によって逸らされる。

「お坊ちゃま。ここは私に任せてお逃げください」

そういってヘリックの前に立ちふさがったのは、黒い髪をした翼が生えた美少女だった。


「わ、わかった。ここは君に任せる」

そう言い捨てると、ケルセウスは必死に逃げ出していった。

「バカだな。ここで逃げ出しても、どうやってこの土星城を脱出するつもりだ?」

「……返す言葉がありませんね」

虚ろな目でケルセウスを見送った美少女は、深くため息をついてヘリックと相対した。

「ですが、私たちハーピー族はジュピター子爵家の家臣。不本意ですが、あなたを倒します」

そういって剣を構える美少女。その技量を感じ取り、ヘリックも真剣な顔になった。

「……なせあんたは亜人種なのに、人間であるジュピター子爵家に仕えているんだ?」

「仕方ないのです。われらが主である、ティターン神のゼフィロス様が、子爵家が管理している『風の迷宮』というダンジョンに捕らえられています」

美少女は油断なく刀を構えながら、彼らの事情を話す。

「私たちは、彼の封印を解くための機会をうかがっています。だから、今は不本意ですがジュピター子爵に従うしかないのです」

そういうと、美少女は改めて名乗りを上げた。

「ハーピー族の娘、エウロス。あなた様に正々堂々とした立ち合いを挑みます」

エウロスはそういうと、ヘリックに切りかかっていった。


風速(ウインドスピード)

エウロスは自らの体に風をまとい、その動きを倍に早める。

「くっ。早い!」

ヘリックは必死になって棍棒を振り回すが、エウロスのスピードについていけず、重い棍棒は虚しく空を切るのみだった。

「もらいました!」

虚しく空振りをした隙をねらって、エウロスの剣が神速の速さでヘリックの首に迫る。

しかし、首に当たった剣はカチーンという音と共に跳ね返された。

「な?」

動揺するエウロスに、ヘリックは余裕たっぷりで返す。

「防御魔法『カチン』だ。体に重力魔法をまとうことで、鉄壁のガードを誇っている」

その言葉とともに、ヘリックは棍棒を振り下ろす。かろうじて剣で受け止めたものの、重い衝撃が伝わってきて激痛と共に体が痺れた。

「くっ」

必至に体をひねって空に舞い上がる。ヘリックの棍棒を警戒して距離をとるエウロスに、ヘリックは冷たく告げた。

「……このままでは、お前の負けは必至だぞ。攻撃が当たらないお前と、当たっても効果がない俺では、有利さが違う」

(確かに……このままでは私の魔力が尽きて、動きが鈍くなってしまう。その時に棍棒で叩かれたら、ひとたまりもない)

事実を指摘されて、エウロスの顔に焦りが浮かぶ。追い詰められた彼女は、自らのもつ最終奥義に勝負をかけることにした。

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