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ハーピー族襲来

ハーピー族の村

この村はジュピター子爵領の領内にあり、子爵家の支配を受けていた。

脇腹に羽があり、空を飛べるバーピー族である彼らは、領内の運搬や伝達などの役割を担っている。

その族長であるボレアスの元に、ジュピター子爵から命令書が届いた。

「何?土星城を攻撃するから、運搬係として出兵しろだと?ふさげおって!」

怒りのあまり命令書を破り捨てるが、控えていた娘のエウロスに諫められた。

「父上。ですが、奴らの命令に従わないと、われらが神ゼフィロス様が……」

エウロスは黒色の髪をポニーテールにまとめた凛とした雰囲気の美少女で、りりしい女剣士として一族内でも一目置かれる存在だった。

「ぐぬぬ……」

オリンポスの神々に封印されている、自分たちの守護神のことを言われて、ボレアスはうなり声をあげる。

「今は我慢して機会を待ちましょう。戦場には私が赴きます」

「すまない……」

こうして、エウロスを代表者とするハーピー族の若者たちがジュピター子爵家に派遣される。

彼女たちを迎えたのは、緑色の髪をした軽薄そうな若者だった。

「やあ。エウロスか。久しぶりだね」

「ケルセウス様……」

エウロスはケルセウスを見るやいなや、顔をしかめる。真面目でストイックな彼女は、チャラチャラとした優男である彼とは昔から気が合わなかった。

「なぜあなたが?」

「いや、父上が土星城を攻めるっていうから、総大将として僕も参加することになったんだよ」

実に軽々しく言い放つ彼に、エウロスは呆れてしまった。

「これは遊びではなく実戦ですよ。経験のないあなたが参加しても……」

「なあに。相手はたかがドワーフだろ。人間によって辺境に追いやられた負け犬たちだ。彼らを守っていた重力魔法『ズシン』がなくなった以上、制圧するのはたやすいことだ」

ケルセウスは悦に入って、持っている槍を振り上げる。

「ふふふ。これで僕も騎士として箔がつくってものさ。さあ、僕たちを土星城まで連れて行くんだ」

「やむをえませんね」

エウロスは説得を諦めて、ケルセウスをはじめとする人間の騎士たちをつかんで空に飛びあがる。

そのまま、空中の土星城まで運んでいくのだった。



開墾作業もひと段落つき、ヘリックは土星城にもどって一休みしていた。

「はあ……結構疲れたな。でも、大豊作みたいだ。うまくいってよかったな」

ヘリックは頭上に広がる黄金色の稲穂にあふれた開墾地をみて満足する。

牧場で天馬たちの世話を終えると、木陰にもたれかかってひと眠りする。気が付くと、ゼウスが目の前に立っていた。

「やれやれ。力を得たはいいものの、ただの農民になるとは情けない。もう一度学園にもどり、女を奪い返そうとする気概はないのかね」

含み笑いを浮かべて煽ってくるゼウスだったが、ヘリックは首を振った。

「俺はもう学園に戻らないぞ。これ以上あいつらに拘わっても腹が立つだけだ」

「それが、そういうわけにはいかないんだ。君にはなんとしてでも、魔法学園に戻ってもらわないといけない」

ゼウスは苦笑すると、その訳を話し始めた。

「ヘラは、君が魔王になる意思がないと知ると、別の人間を魔王にするつもりらしい。そいつを放っておくと、世界が大変なことになる」

映像が切り替わり、未来が映し出される。

「よくも私をすてたわね……許さない!あなたたちごと世界を滅ぼしてやるわ!」

黒いドラゴンにのった仮面をかぶった少女は、そう言い放ち、勇者となったノーブルVと相対していた。

彼女の胸には、真っ黒い「冥王星(プルート)」のマークが輝き、全身から闇の魔力を放っている。

「婚約破棄をして、君を傷つけたことは謝る。だけど、罪もない民まで傷つけ、多くの人々を殺した君は許しておけない」

自分たちが魔王を生み出す原因を作ったくせに、ノーブルVの面々はそう上から目線で説教すると、エスメラルダと共に剣を振り上げる。

「かわいそうな……さま。私の手で楽にしてあげましょう」

そういうと、光の聖女エスメラルダは怨讐を超えて固い友情で結ばれることになった少女とともに戦いに挑む。

長い長い闘いの末、ドラゴンと仮面の少女は打倒された。

「きゃぁぁぁぁぁ!恨んでやる。呪ってやる!」

呪いの言葉を吐きながら消滅していく仮面の少女を、エスメラルダはふられ女を見る憐れみの目で見ていた。

「さあ。邪悪な魔王は倒した、僕たちの幸せな未来はこれから始まるんだ」

「ええ……」

エスメラルダは頬を染めて、好きな攻略対象の手を取る。

そして国に戻った彼らは、英雄として人々に崇められるのだった。

「わかったかい?『当て馬』は何も君だけじゃない。他にもいるというわけさ」

「それは誰だ」

ヘリックは震える声で聴くが、ゼウスは首を振った。

「わからぬ。だが、これから「冥王星(プルート)」の加護を得る者だ。その加護を得た者は、世界そのものを破滅させようと暴れまわり、多くの人を破滅させるだろう」

「そんな……どうしたら世界を救えるんだ」

ヘリックは自分が魔王にならなくても、ほかの誰かが不幸になった結果魔王になってしまうと知って、なんとか食い止めたいと思っていた。

「なら、君はもう一度学園に戻り、誰が魔王になるか見極めてほしい」

「……わかったよ。でも、下男のままじゃなにもできないぞ。最低でも貴族の生徒として学園に入学しないと」

そういわれたゼウスは、皮肉そうな顔をして告げる。

「……心配するな。君が貴族になれるように、運命を調整した。起きたらある『イベント』が起きるだろう。まずはそれを乗り越えて見せたまえ」

「おい。イベントってなんだよ!俺に何をさせるつもりなんだよ」

そうヘリックは聞き返すがゼウスは答えず、次第にその姿が消えていくのだった。

「……マスター!起きて!大変だよ!」

ノームに揺り起こされて、ヘリックの目が覚める。

「どうしたんだ?」

「ハーピー族たちが攻めてきたんだよ!」

そういわれて、ヘリックは頭上を見上げる。何百人もの翼を生えた人間が、鎧をまとった騎士をぶら下げて土星城に迫って来ていた。


「まずいぞ。奴らをよせつけるな!」

「わかったよ!「触手」」

木でできた触手が伸びてきて、土星城を覆う。

「うわっ!」

「なんだ!」

翼が生えた人間たちは、触手に追い回されて逃げ回った。

「チッ。だらしがないハービーどもめ。みんな!行くぞ!」

ケルセウスの命令により、鎧を着た騎士たちが地面に飛び降りようとする。

「ケルセウス様。待ってください。この高さから飛び降りたら、危険です!」

「うるさい!」

必死で止めようとする背中のエウロパを振り切り、ケルセウスは地面に向けてダイブする。

「『風圧(ウィンドプレッシャー)』」

地面に向けて風魔法を放ち、落下の衝撃を和られげよぅとする。それによって、ケルセウスはなんとか着地することができた。

「みたか!僕の風魔法を!さあ、お前たちも続け!」

ケルセウスの雄姿を見て、他の騎士たちも奮い立つ。

「ええい!放せ!臆病もののハーピーどもめ」

「われら、ジュピター騎士団の勇猛さを見せつけてやる」

背中で支えているハーピー族に対して、そう罵声を浴びせてくるので、彼らは困ってしまった。

「姫様。いかがいたしましょう」

「仕方ないわ。放してあげなさい」

冷たい顔をしたエウロパの命令に従い、ハーピーたちは騎士たちを放り出す。

彼らは土星城に向かって、真っ逆さまに落ちていくのだった。


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