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ほくそえみ

作者: シャー芯

 日傘を雨の日に差して、思い出す叔母の顔。

 濡れて暗くなる瞳、重い長靴。

 簪に三色だんごを挿してみたの。

 

 似合うかしら?


 キセルで、喫茶店のジュースを飲んでみたの。

 胃に流れる煤がちょっと苦い。

 腰刀で爪を研ぐ、つややかに。

 

 綺麗でしょう?


 オペラを観にいった帰り、小鳥を一匹買ってみた。

 でも、餌を買うのを忘れてしまったの。

 震えて鳴く、真似して私も啼いてみる。


 滑稽でしょうか?


 新しいベベを身に纏い、恋人ごっこ。

 甘く言って、後から来るのは虚言。

 プロポーズは遺書だった。


 可笑しいねえ?


 今日は髪を切ったり、してみたけど。

 自分の姿が醜く、鏡を砕く。

 気付いた? 手が痛いでしょう?


 本当だ、本当だ。


 時計の針が飛んでった。

 カレンダーの曜日が戦争だ。

 日々は、手をとり回り踊る。


 可愛いね、素敵だわ。


 小鳥が籠を噛み切り、死んじゃった。

 私は悪魔だろうか? 

 籠の前に置かれた餌。 それがこの子の墓になろうとは。


 世は、いとおかし。


 真似するの、大好きなの。

 だから、キセルを噛んでみる。

 目の前に、三色だんご置いといて。


 時計の針は餌のなか。


 あおい長靴に入れたカエルの子供。

 叔母が、火照った庭へと撒き散らす。

 カラスが教えてくれた。

 

 好きだったのになあ?


 長靴は真っ赤だ、真っ赤。

 自慢の庭も、カラスの羽根で見えないし。

 私は叔母に三色だんごをあげた。


 冷たく笑って見せないで。


 一人、雨傘を躍らせて、行く裏道。

 私はもう子供じゃないわ。

 愛を知ってもいいじゃない?


 日々が回り、倒れてゆく。


 お金は好きだけど、愛せないわ。

 それは罪なことかしら?

 冷たく笑って見せないで!


 私の簪を握り、青ざめないで。


 蔵の窓から見える外は青い。

 二つに折れた簪、小鳥が死んだ餌の箱。

 くしゃくしゃの恋文、赤くなった長靴。


 私を甘く見ないで下さる?


 日傘を雨の日に差して、思い出す叔母の顔。

 「ワタクシヲアマクミナイデクダサル? 」

 永遠の子供だとでも思ったのかしら?

 

 日々だって、刀を持つ事もあるわよ。


 自慢の庭に活ける悲願花。

 閻魔様に逢えますように、と。

 あんたの声は聞き飽きたわ。


 舌を抜かれ、奪った罪を味わいなさいよ?


 かく言う私も、知らなければいけないでしょう。

 心得ています、心得ているわよ。

 毒の着いた簪と三色だんご。


 滑稽でしょうねえ?


 いつの日かの小鳥みたいに、籠を噛み切る。

 雨粒が傘をすり抜ける。

 あの人ってば、どうして雨傘をくれなかったのかしら?


 馬鹿よねえ?


 ある晴れた日に、裏道で見つけました。

 骨だけの傘と人間。

 握られた簪、芸術とでもいうのかねえ?


 一人の老婆は、そっとほくそえむ。

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