来客、再び8
そんな菊子の心の声なんて聞こえやしない柚李は期待の眼差しで菊子を見ている。
菊子は、うっ、と声を漏らす。
面倒事はごめんだわ。
何で私が知り合ったばかりのこの人の為に恋のキューピッド役を務めにゃならんのよ?
何とかお断りしなきゃ。
「あの、柚李さん、私、仲を取り持つとか、そういうの苦手でして。私は適任ではないと思うのよね。だから申し訳ないですけどお断りさせて頂きます。あの、柚李さんの恋愛は陰ながら応援しますので。あくまでも陰ながら」
「野宮さん、本当は雨さんに気があるんじゃないですか?」
「ええっ?」
「だから私に協力できない」
「そ、そんな、違います!」
「だったら協力してくれませんか? 私達、友達ですよね?」
「うっ……」
菊子は言葉を詰まらせる。
「私と友達になりたいって言ったのは野宮さんの方ですよ。あれ、嘘ですか?」
柚李が菊子に門越しに詰め寄る。
「いや、嘘では無いけど……」
「なら、協力して下さい。友達の頼みですよ」
「いや、だから、私そういうの苦手で……」
「やっぱり野宮さん、雨さんの事、好きなんですね。だから私に協力したくない。あんな素敵な人ですから、好きになるのは当然ですよね」
「いや、だから違う! 本気で違う! マジで違う!」
「そこまで言うなら協力できますよね。雨さんに恋愛感情を本当に抱いていないなら問題無いはずですよ!」
「それはそうですけど」
それはそうですけど、面倒くさいのよ!
でも、ここで断ったらこの人、私が目黒さんの事が好きだって勘違いしそう。
それはそれで面倒くさい事になりそうな気がする。
ど、どうしよう。
こんな究極の選択が待っていようとは夢にも思わなかった菊子。
選択次第では九死に一生を得る。
正に窮地。
「野宮さんが、もしも実は雨さんの事がお好きなんだったら私達、ライバル、という事になりますね」
柚李が不敵にそんな事を言い放つ。
こ、こんな人がライバルとか冗談じゃないわよ!
明らかに敵に回すとヤバい人じゃない!
戦慄が走る菊子。
柚李のこの台詞がとどめの一言となる。
「あの、ああ、もう分かりました! 分かりましたから! 協力させて頂きます! 頂きますから! その勘違いを止めて下さい!」
もうこれ以上菊子に出来る事は無い。
「きゃーっ! ありがとうございます! 野宮さんとお友達になれて、私、本当に良かったです! あ、連絡先、交換しません?」
菊子は柚李の変わり身の早さに唖然とする。
柚李さん、あなたの強引さはお母様譲りですか?
「ああ、はい。何でもどうぞ」
菊子は、がくりとしてそう言った。
こうして菊子は柚李と雨の恋のキューピッド役を務める事とあいなった。




