来客、再び2
クロエちゃんに嫌われたくないなぁ。
ぽつりと思い、菊子は扉をノックする。
中から、「はい?」と言う雨の声。
菊子は扉越しに、「あの、目黒さんにお客様です。中山様、という方がいらして、蟹をお裾分けに持って来て下さった様なんですが」
と言う。
扉の向こうから聞こえた「中山さんが? 今行く」と言う雨の声に菊子は、「はい」と返事をして待つ。
扉が開き、雨が廊下へと出て来る。
「中山さんって昨日会ったよね」と雨が菊子に言う。
「えっ?」
言われて菊子は昨日の出来事を思い出そうとする。
しかし、インターフォンのモニターで見た女性に見覚えは無かった。
「あの、ごめんなさい。分かりません」と菊子。
「ああ、じゃあ、柚李さんの方かな」と雨が言う。
「ゆずりさん?」
はてな、な菊子。
「昨日、買い物に行く時、会ったよね。中山さん。地区長の」
言われて菊子は、ああっ、と思い出す。
あの、おば様。
確か旦那さんがJフラッシュの会長。
中山夫人と買い物途中で挨拶を交わした事など菊子には記憶の彼方だった。
「その中山さんのお嬢さんだよ」
雨の台詞に、「なるほど」と菊子。
「中山さんにはたまにお裾分けを頂くんだ。柚李さんが良く持って来てくれて。ご近所だし、これから菊子とも付き合いがあるかも知れないから紹介しよう。一緒においで」
「えっ」
余計な付き合いはごめんだわ。
Jフラッシュ会長の娘と私とこれから付き合いがあるとも思えないし。
しかし、これも仕事か。
「分かりました」
菊子は雨の後に続き、玄関へと向かった。
雨が玄関扉を開けると門の前に蟹の彼女の姿が見えた。
「柚李さん、どうぞ」
雨が声を掛けると蟹の彼女、中山柚李は門を開き中へと入って来た。
手には紫の風呂敷包み、白いニットに白いロングスカート、そして白いサンダルを履いた柚李の姿は清楚という言葉が良く似合った。
ゆっくりと玄関扉の前までやって来た柚李は、雨の少し前で止まり「雨さん、こんにちは」とはにかんだ笑顔で言う。
「おはようございます、柚李さん。蟹を持って来て下さったとか? いつもありがとうございます」
雨が頭を下げると柚李は片手を横に振り、「とんでもない! いつも色々貰って頂いて感謝してます! 家で余らせるよりは雨さんの所で頂いてもらった方が良いですから! 蟹も本当に沢山頂いたので!」と一生懸命に話す。
沢山の蟹って何なの?
想像して、菊子は少し、くすりっと笑ってしまう。
すると柚李の視線が菊子に向いた。
菊子は、いけない、と緩んだ口元を引き締めた。
「あの、こちらの方は?」
躊躇いがちに柚李が雨に訊ねる。




