お客様の対応に戸惑う事甚だしい7
菊子は躊躇う。
「そんな、クロエさんのを頂く訳には!」
全力で遠慮をかます菊子。
「クロエは二個食べな。菊子、はい」
そう言って雨が自分の分のマドレーヌを菊子に渡そうとする。
「め、目黒さん!」
そうも行きませんよ、と菊子は高速で手を横に振って遠慮して見せる。
日向は、どうしたら良いのか、と言う風だった。
か、カオス!
菊子の心の中で悲鳴が上がる。
と、「良いの!」
クロエが立ち上がり、言った。
はっとした顔で全員がクロエに注目する。
「私、雨兄いとひーちゃんに食べて欲しくてマドレーヌを持って来たんだから! だから二人には二個食べて欲しいの! 私はお家で十分食べたから、だから私の分を家政婦さんにあげるの!」
クロエの握りしめる両手には力が籠っていた。
唇は、ぎゅっと結ばれている。
決意の固さが見て取れた。
菊子は小さくため息を漏らし、「じ、じゃあ、クロエさんのを頂こうかしら」と、申し訳ない気持でいっぱいで言う。
雨が何か言い出しそうになったが日向が咄嗟に「優しいな、クロエは。なぁ、あにき?」と言うと深く頷き、「クロエがそれで良いなら……うん、クロエは優しいね」とクロエの頭を撫でた。
クロエが、「えへへっ」と笑顔を見せる。
よ、良かった。
何とか収まった?
「じゃあ、頂きます」
菊子はクロエのマドレーヌに手を伸ばして一口食べた。
「あ、美味しい」
マドレーヌは本当に丁度いい甘さで、さくっとしていた。
菊子は、ゆっくりと味わいながらマドレーヌを食べた。
焼いたお菓子を持って来るとか、本当、女の子らしいと言うか、何というか。
クロエちゃんって本当に可愛いわ。
咄嗟の気遣いも出来るし。
こんな子がお隣さんだったら目黒さんだって可愛がっちゃう訳よね。
一緒にお茶とか、どうしようかと思ったけどこんな子とお茶出来て嬉しいな。
「ご馳走様でした。凄く美味しかったです」
そう菊子がクロエに言うと、「ありがとう」とクロエから返事が返って来た。
菊子が食べ終わる頃には雨も日向も二個目のマドレーヌを完食していて、それぞれが笑顔を浮かべて「美味しかったよ」とクロエに言った。
クロエは、にっこりと笑って、「ありがとう」と言うのだった。
あれ?
菊子は何となく違和感を感じた。
何かしら?
首を傾げる菊子だったが、違和感の正体は掴めない。
「家政婦、紅茶のお代わり!」
日向の声が菊子に掛かり、菊子は我に返ると直ぐに、「はい」と声を出す。
「あの、他にもお代わりの方は?」
菊子が訊ねると雨もクロエもお代わりを頼んだ。
あ、私もお代わりしちゃお。
何だか喉が乾いちゃった。
菊子は席を立ち、キッチンへと向かう。
さっき感じた違和感の事は忘れて。




