お客様の対応に戸惑う事甚だしい6
プレーンタイプとチョコレート色タイプのマドレーヌはちゃんと貝殻の形をしていて、そして美味しそうに焼けている。
菊子は思う。
マドレーヌの数は六つ。
種類は二種類だから、一人二つずつ。
目黒さんと日向さん、クロエちゃんの分って訳よね。
頑張って作ったとすると目黒さん達と食べるのを楽しみにしていたはずよね。
雨、日向、クロエがマドレーヌに手を伸ばす中、菊子はマドレーヌには手を付けず、すまし顔で紅茶を啜った。
皆んながマドレーヌを口に入れる。
「うん、凄く美味しいよ」
チョコレート色のマドレーヌを一口食べ終わった雨の台詞にクロエは薔薇が咲いた様な笑顔を見せる。
今度は日向が「美味しい。甘さが丁度いい感じだ」と漏らした。
「良かったぁ」
クロエの声が明るく響く。
「味、甘すぎないか心配だったんだ。ねぇ、雨兄い、大丈夫だった?」
クロエの問いに雨は、「うん、丁度良い甘さだよ」と返事した。
「本当、凄く美味しいよ、クロエ。ありがとう。菊子も食べてごらん。はい」
雨がプレーンのマドレーヌを手に取り菊子に差し出した。
「あっ」とクロエが声を上げる。
菊子は目を見開いて雨を見た。
いやいや、目黒さん。
どう考えても、それ、あなたに食べて欲しいやつでしょ!
事の成り行きを、はらはらした様子で見ているクロエが可愛そうに菊子には映る。
こ、ここは何とかせねば!
「あ、あの、お気持ちだけで十分です。私、朝ごはん沢山食べちゃって、お腹いっぱいなので、もう何も入らなくて。せっかくで申し訳ないですが、皆さんで召し上がって下さい。私は大丈夫ですから」
にこやかな作り笑顔をして見せる菊子。
「家政婦もそう言ってる事だし、いいんじゃないか、あにき。せっかくマドレーヌが二種類あるんだから二つとも、あにきが食べたら良いよ。プレーンも凄く美味しいしさ」
思わぬ日向の助け舟。
菊子はほっとする。
だが、しかし。
「美味しいからこそ菊子も食べなきゃ。お菓子は別腹だよ。皆んなで美味しいって食べた方が俺は嬉しいな」
雨の眩しい笑顔がキラキラと光る。
こ、こいつ、空気読まねーわ!
と、思いつつ雨の笑顔に弱い菊子は言葉を失った。
日向も黙ってしまった。
ど、どうしよう。
マドレーヌを私が食べちゃったらクロエちゃんがきっとがっかりするし、食べなかったら食べなかったで目黒さんががっかりする。
究極の選択。
この状況に目眩がしそうな菊子だった。
「あの……私のをどうぞ」
沈黙の中に小さな声が響く。
声の主、クロエが菊子に自分のマドレーヌを差し出していた。
「えっ」




