お客様の対応に戸惑う事甚だしい1
キッチンで洗い物を始めた菊子。
雨は自室に戻ってしまった。
家の中はとても静かであった。
日向さんの洗濯が終わるまで家の掃除でもしていようかしら?
あ、ポストに新聞とか入ってるのかな?
見に行かなきゃ。
菊子がそんな事をぼんやりと考えているタイミングで、ピンポーン! と小気味よくインターフォンが鳴る音が聞こえた。
インターフォンの受話器はキッチンにある。
モニターが付いていて、どんな人物が来たか分る様になっている。
来客の対応も菊子の仕事、と雨から菊子は聞いている。
菊子は濡れた手を拭き、インターフォンに走った。
宅配便か何かかしら?
そう思って菊子は、「はい」と受話器に出る。
そして、モニターに目を向けて絶句した。
モニターには一人の少女が映っていた。
少女はピンク色のロリータファッションに身を包んでいた。
少女が頭に載せているボンネットがモニターから見切れている。
「あの、どちら様ですか?」
思わぬ人物の登場に驚きを隠しつつモニター越しに少女に訊ねる菊子。
「どちら様って、あなたがどちら様?」
少女の怪訝な声が返って来る。
可愛らしい小鳥の鳴く様な声で少女は、いらついた感じを醸し出している。
「えっ、えーっと。わたくしはこちらの家政婦ですが」
畏まって菊子が答えると「家政婦さん?」と首を傾げて少女は言う。
少女は瞬きをしてから「雨兄いに、クロエが来た、と伝えて下さい」と菊子に言った。
雨兄い?
目黒さんの事……よね?
「か、かしこまりました」
通話を終え、菊子は受話器の前で固まる。
一体あの少女は何者なのか。
モニターから菊子が見た少女は大変な美少女であった。
肌は白く、鳶色の瞳に黒く長い波の様なウェーブの掛かった髪をしている。
つん、と少し上を向いた鼻が少しだけ彼女を生意気そうに見せる。
あの子と目黒さんと、どういう関係なの?
く、くろえさん?
眉を寄せながら雨の部屋に急ぐ菊子。
キッチンを出て廊下を小走りし、雨の部屋の前に立ち、扉をノックする。
「あの、目黒さん」
ややあって、「何?」と雨から返事があった。
「あの、お客様が……くろえさん? という方が」
「クロエ?」
雨の部屋から、がたがた、と物音がして、やがて雨が部屋から出て来た。
雨は嬉しそうな表情を浮かべていた。
雨は車椅子を滑らせて玄関へと向かう。
菊子は慌てて雨の後に続いた。
雨は段差の無い玄関のたたきまで進むと玄関扉の鍵を開けて扉を開け放った。




