爽やかな朝……か5
良し!
菊子は蛇口を捻り、コップに水を注ぐと口の中をガラガラとゆすいだ。
「はぁ。スッキリした」
菊子は洗面台に映った自分の姿を見る。
完璧。
まさに完璧。
これで今日一日、女として生きていける。
ガッツポーズを取ると、菊子は静かに脱衣室を出た。
脱衣室の前には雨と日向が困惑した顔をして並んでいた。
「菊子、一体どうしたんだよ。何があったんだ?」
雨は菊子を心底心配している様子だ。
「家政婦、あんた変だぞ。何があったんだよ」
日向の表情も心配げだった。
菊子は二人の前で、ゆっくりと頭を下げた。
角度は九十度。
そして言う。
「お騒がせして申し訳御座いませんでした。私、どうやら寝ぼけていた様です」
菊子は顔を上げる。
その顔は真顔であった。
「は?」
「へ?」
は、は雨。
へ、は日向。
二人は揃って、ぽかんとしている。
菊子は真実を闇の中に葬ることに決めた。
二人に本当の事を話せばきっと雨は呆れ、日向は馬鹿にするだろうと菊子は思ったのだ。
「寝ぼけてあの騒ぎって何だよ! 人騒がせにもほどがあるだろ!」
日向が文句を言う。
雨は目を、ぱちぱちさせてただ菊子を見ていた。
「本当に申し訳ありませんでした」
本心から菊子は謝った。
このまるで謝罪会見の様な場で、菊子は思っていた。
二人とも、私の事を本当に心配してくれてた。
感謝しなくちゃ、よね。
「あ」
菊子が声を上げた。
「何だ!」と雨。
「どうした!」と日向。
二人の顔はまた心配げな表情を作る。
そんな二人に菊子は極上の笑みを作り「忘れてました」と言う。
「何を?」
雨が訊くと、菊子は「挨拶です。目黒さん、日向さん、おはようございます」そう言って丁寧にお辞儀をした。
雨と日向はお互いの顔を見合せると、ふぅっと二人同時にため息を付く。
「おはよう」
雨が笑顔で言う。
「おはよう」
不満そうに日向が言う。
騒々しい目黒家の一日が幕を開けた。




