爽やかな朝……か3
顔を拭き終えると、フェイスタオルを洗濯かごに放り込んで化粧水とローションを顔に叩き込み、菊子は脱衣室から飛び出した。
廊下に出るなり菊子は、「うっ」と唸り声を上げ、たじろいだ。
廊下に雨の姿があったのだ。
雨は上下グレーのスウェットの恰好だった。
「め、目黒さんっ」
菊子は顔を両手で隠しながら言う。
「菊子、どうしたんだ。悲鳴が聞こえたんで起きて来たんだけど」
心配そうな声で雨が言う。
「あ、いえ、べ、別に……」
菊子は言葉に詰まる。
「おい、何か悲鳴が聞こえたんだけど」
日向の声と足音がする。
日向が二階から下りて来た様だった。
し、四面楚歌!
菊子は思わぬ窮地に追い込まれる。
「菊子、顔なんか隠してどうしたんだよ?」
困惑気な雨の声。
「あにき? 家政婦?」
近づく日向の声。
だめ。
もうだめ。
限界。
「あの、あの、あの」
「菊子?」
「おい、何やってんの? あにき? 家政婦?」
「ごめんなさい!」
菊子は顔を隠したまま脱兎のごとく走り出した。
「菊子!」
「えっ? おい、家政婦?」
自分に掛かる声を背中に聞きながら部屋まで走り、部屋に滑り込み、メイク道具を漁りながら菊子は思う。
ああ、私ってなんてみっともない女なの!
失態!
女としての失態!
嫌!
嫌! 嫌! 嫌すぎる!
「もう死にたい」
ネガティブタイムに突入しながらも、メイクを始める菊子。
ファンデーションを塗り、頬紅をはたき、眉毛を描き……あれやこれやをした後で最後の仕上げに口紅を塗る。
完璧。
ドレッサーの前で化粧の仕上がりの良さに微笑む菊子。
次に菊子はスーツケースを広げて洋服を吟味する。
アレでも無いコレでも無いとやる事数分。
黒のデニムパンツと包みボタンをあしらった深緑色をしたフリルスタンドカラーのシャツでコーディネートは決まった。
次は髪だ。
くしゃくしゃの髪に寝癖直しをスプレーして櫛で梳かして白いレース編みのシュシュで一つに結わえる。
そして、忘れるべからず、エプロンを再び身に着ける。
完成だ。
菊子は鏡の前で、もはや落ち着いている自分に拍手を贈る。
しかし。
「あっ」
菊子はここでまた大事なことを思い出す。
「歯磨き忘れた」




