なんやかやの後(ご)3
廊下に出て、二階の自分の部屋に上がりかけた時、菊子は立ち止まった。
菊子は脱衣室を出てから雨とは顔を合わせていない。
雨はまだ、ダイニングで眠っているのだろうか、それとも、もう目が覚めて自分の部屋にいるのだろうか、と菊子は考える。
静まり返った家の中に、その答えは無いような気が菊子にはした。
「家政婦、そんな所で立ち止まってどうした」
頭上からの声に菊子が、はっと顔を上げれば日向だった。
「うっ」
菊子は小さく唸る。
早速、見られたくない姿を見せたくない人に見られてしまった菊子。
日向は別段何でも無い風に菊子を見ているが、菊子の心臓は、どきどきだ。
変な恰好とかいじられたらどうしよう。
「べ、別に。ひ、日向さんこそ、どうしたんですか。下に何か用事でも?」
どきどきしているのを誤魔化したくて菊子が出した声は多少上ずっていた。
「俺の家で俺が何時何処へ行こうと勝手だろ。あにきがまだリビングで寝てるから起こしに行くんだよ」
勝手だろ、と言いながらも、ちゃんと答えてくれる日向。
「目黒さん、まだ、あそこで寝てるんですか」
「ああ。何か、幸せそうな顔して寝てるから起こすの可哀想で。でも、風邪でも引かれたら、あれだから、これから起こしに行くんだ」
「…………」
「ん? 何だよ、家政婦。変な顔して」
訝し気の日向の顔。
「別に何でもありません。じゃあ、失礼します」
菊子は階段を上り、怪しむ目で菊子を見る日向とすれ違うと速足で階段を上った。
そして、そのまま駆け出す勢いで自分の部屋の扉の前まで行くと、扉を勢いよく開けて、静かに閉めた。
部屋の電気も付けずに菊子はベッドに潜り込む。
幸せそうな顔して寝てるから…………。
日向の台詞を菊子は頭の中で反芻させる。
何よ。
なんだか嬉しいじゃない。
まだ眠るには早い時間だが、菊子は笑みを浮かべながら目を閉じた。
普段、夜更かしの菊子は不思議とそのまま眠りに着いたのだった。




