なんやかやの後(ご)1
「極楽極楽っ!」
菊子はバスルームのバスタブに浸かり、手足を伸ばして古くから伝わるお決まりの台詞をバスルームに響かせていた。
他人の家のバスルームでこんなにもリラックス出来てしまう自分に菊子はびっくりしていた。
いっぱいに張られた湯舟に浸かっていると一日の疲れが吹き飛ぶ様だった。
今日は、何やかやと色々あったな。
本当、こんなんでやって行けるのかしら。
根を上げて辞める事になれば給料は全額返す。
そんな約束をしてしまった。
約束と言えば、雨とお互い恋愛感情は抱かない事と菊子は約束している。
それがそもそもの働く条件だ。
今の所、お互いそんな気配は微塵も無いけれど……。
と菊子は考える。
目黒さんに恋するかって事は問題外。
今は私が仕事に根を上げるか否かだ。
目黒さんは、何か私の事を可愛いとか言い出したり謎の行動を取るし、日向さんは、やっぱり何だか分からないし、人間関係が複雑な感じ。
仕事は……どうなんだろう。
お皿を割るとか古典的失敗しちゃったから何とも言えない。
菊子の付いた小さなため息はバスルームに虚しく消えた。
まぁ、何とかなる……かな。
菊子はバスタブから棚の上に置かれたラックに収まった目黒ブラザーズのボディソープに目を向ける。
細長くて白い、お洒落なラベルが貼ってある、いかにも高そうなボトルに入った物だ。
ラックの一番下には菊子自前のドラッグストアで買った安いボディソープと一応こだわったシャンプーとコンディショナー。
そして棚の隅には菊子の、これまたドラッグストアで安かったメイク落としと洗顔が置かれていた。
あのボディソープ良いな。
使いたい。
シャンプーとコンディショナーは流石に男物だから遠慮したいけど。
菊子は湯舟に身を沈め、羨ましさを清めると、ざばっと音を立ててバスタブから出た。
脱衣室で菊子は日向に言われた通りに棚に畳まれた白いタオルで体を拭く。
体を拭いた後のタオルはどうしようか、と菊子は悩む。
脱いだ服は部屋に持っていけ、と言われたが、濡れたタオルまで部屋に持って行くのは何だか菊子は嫌だった。
タオルは良いか、と菊子は雨や日向の洗濯物が入っているかごの上に使ったタオルを畳んで入れた。
洗濯かごを眺めながら、この洗濯物、明日私が洗うのよね、何て菊子は思ってみる。
洗濯なんて、いつも適当にやってるからな。
何だか心配。




