雇い主の我がまま? 応えます。13
また失敗でもしたのかと菊子は青ざめる。
「家政婦、あんた、夕飯の片付けはもう済んだのかよ?」
「はい、終わりました」
「じゃあ、あんたも風呂に入ってもう休めよ」
「え、良いんですか?」
きょとん、とする菊子に日向は、「あにきはリビングの方で寝ちまってるし、別に良いんじゃないの」と言う。
そうだ。
菊子は雨から仕事の指示を仰がなければならないのに雨は今、すやすやと眠っている。
「……じゃあ、そうします。あの、明日の事何ですけども。私は何時に起きて何をしたら良いんでしょうか? そういうの、まだ全然目黒さんから聞いていなくて」
菊子がそう言うと、日向は、「あー」と、面倒ぐさげな顔をして漏らし、頭を掻きながら、「そうだな……」と言って考え始める。
「六時くらいには起きて、朝飯が食える様にしておいてくれたら良いよ。俺もあにきも起きる時間がまちまちだから、ただ飯炊いて、パンとか適当にダイニングの方のテーブルに置いておいてくれたら良いから。俺もあにきも勝手に何か食べるよ。ああ、ポットの湯、沸かすの忘れないで。あ、後、あにきが買った菓子を何んでも良いからテーブルに置いといてやって。あの人、菓子がほとんど朝飯の人だから。で、朝、あにきに会ったらその日やる事訊けば良いから」
「分かりました」
菊子は朝の六時、という所を頭の中で反芻する。
「もういいか?」
日向がそう言うと菊子は、「はい」と頷く。
「じゃあ、俺行くから。タオルは、その棚に畳んである白いのを使って。あ、風呂の湯、一応、新しいのに入れ替えといたから」
そう言って日向は立ち去ろうとする。
「ちょっと待って下さい」
菊子の声に日向は立ち止まる。
「あの、バスルームを使わせて頂けて、とてつもなくありがたいんですけど、いちいちお湯を張り替えなくても良いですから。お湯が勿体無いです」
冷静に菊子はそう話す。
「そう言われても、こっち的に、俺が入った湯をお前が使うのが何だか色々気を使って嫌なんだが」
言葉通り実に嫌そうな顔をして日向が言う。
「気遣い無用です! お風呂のお湯の様子がおかしかったら私、シャワーだけにしますから大丈夫です!」
そう言い放つ菊子の顔には気迫があった。
菊子の気迫に日向がたじろぐ。
「風呂の湯の様子がおかしかったらって……わ、分った。分ったから。もう行くぞ!」
「待って下さい」
「もう、何だよ!」
「あの、私が脱いだ服、どうしましょうか。見たところ洗い物は洗濯かごに放り込んでいるみたいですけど。私のも一緒に入れて良いんです?」
「は、はぁ? 良い訳無いだろ! あほ家政婦!」
そう叫ぶ日向の顔は赤い。
その理由は湯上りだから、ではなさそうだ。
「じゃあ、どうすればいいんです?」
訊かれて日向は少し考え「自分の部屋に持ってけ!」と叫ぶ。
「……はい」
「じゃあな」
「待って下さい」
「何だよ!」
「あの、ボディソープとかシャンプーとか女性用のを一応持って来たんですけど、バスルームの中に置かせて頂いても?」
「好きにしろ! 歯ブラシも好きにしろ! コップはキッチンから適当なのを使え!」
「了解です」
「じゃあな!」
「待って!」
「何?」
うんざりとした顔で言う日向。
「このドライヤーと櫛はどこに置けばいいんですか?」
最後の質問を菊子はしれっと言った。




