雇い主の我がまま? 応えます。11
菊子は赤い色のドライヤーのスイッチを入れる。
ドライヤーから熱風が、ぶぉーんと吹き出す。
菊子は距離を置いてドライヤーの風を雨の髪に当てた。
雨の髪がドライヤーの風で舞う。
「おおっ」と雨が声を上げる。
何ですかそれ、と思いながら菊子は指で雨の髪をかき混ぜた。
菊子の指を雨の濡れた髪が流れる様に伝う。
髪は直ぐに乾き始める。
ショートヘアって髪が早く乾いて良いかも。
と思っても、中々思い切って髪を切ろうという気持ちにはなれないんだけれども。
髪が乾いて来たところで菊子は雨の髪を指で整えながらドライヤーを当てる。
さらさらと指を抜けてゆく雨の髪が何故だか心地いいな、と菊子は思う。
不思議な感じだ。
「気持ちいい」と雨がほっとした声で漏らす。
「光栄です」と菊子が言うと、ふふっ、と雨が笑った。
何か、ちょっとこういうの良いかも。
彼氏が出来たらやってあげよう。
そう思う菊子の口は、知らずに笑みを作っていた。
雨の髪は直ぐに乾いた。
菊子は最後の仕上げに、また雨の髪に櫛を通す。
さらさらの髪。
この人の髪に触れた女の数はどれくらいだろうか、と下らない事を菊子は考えてみる。
雨との付き合いが始まって以来、この髪に触れたのは今日が初めてだ。
ちょっとした記念日?
何て思った後で、下らない、と菊子はすぐに思い直す。
「目黒さん、終わりましたよ」
菊子がそう告げるも返事は無い。
「目黒さん?」
菊子は雨の顔を覗き込んでみる。
雨の瞼は降りていた。
もしかして、眠ってるの?
菊子が、じっと雨の顔を見ていると、雨から小さな寝息が聞こえた。
ね、寝ちゃってる。
どうしたものかと菊子は眉を寄せる。
起こす?
それともこのままにしておく?
雨の顔を見ながら、うーむ、と悩む菊子。
寝ちゃうほど気持ちよかったのかしら?
そうだと思うと僅かな嬉しさと共に、起こすのが何だか可哀そうな気持ちになる菊子。
しかし、やっぱりこのままにはしておけないと菊子は思う。
ブランケットは無いかしら。
菊子は部屋の中を見回す。
リビングダイニングは木の長方形のダイニングテーブルと戸棚があるダイニングスペースと、大きな黒革製のソファーと楕円のガラスのローテーブルと大型テレビがあるリビングスペースに分れている。




