雇い主の我がまま? 応えます。5
菊子の指を見ながら日向が言う。
ああ、と菊子は思う。
忘れていた。
「はい。割れたお皿で指を切ってしまって」
「馬鹿だな」と日向は言う。
そんな事分かってる、と菊子は思う。
日向はキッチンの戸棚の前まで行くと戸棚の上に手を伸ばして、戸棚の上に乗った木の箱を取った。
そして、キッチンテーブルの上に、その箱を置く。
「家政婦、早く来い」
「え、何ですか?」
呼ばれて日向の側に行く菊子。
すると日向は箱の蓋を開けた。
箱には包帯やら消毒液やら絆創膏やらが収まっていた。
箱は救急箱だった。
日向は救急箱から消毒液とカット綿を取り出し「指、貸してみろ」と菊子に言う。
言われるままに菊子は怪我をした指を日向に差し出す。
日向が菊子の指を取って傷口に消毒液を吹き付ける。
消毒液が傷口に染みた菊子は顔を歪めた。
日向はそんな菊子を無言で見ると、今度は救急箱から絆創膏の箱を取り出して一枚絆創膏を抜き取ると、絆創膏の紙を剥がして菊子の傷口に貼ろうとする。
菊子は思い出したかの様に、「あの、自分で出来ますから」と言う。
日向は、はっとした顔をして、その後、気まずそうに、「まぁ、ここまでやったし、ついで」と言って菊子の指に絆創膏を貼る。
菊子は絆創膏の貼られた自分の指を見る。
絆創膏は丁寧に貼られていた。
「あの、ありがとうございます」
頭を下げる菊子。
「別に」と救急箱を片付けながら日向。
「救急箱、この下に置くから。また怪我したら使えよ。間抜けな家政婦は家の皿をばんばん割りそうだからな」
そう言って日向はキッチンテーブルの下の収納スペースに救急箱を収めた。
日向さんも目黒さんも、優しいんだか、意地悪なんだか。
「あの、お皿、弁償します。申し訳ありませんでした」
再度、頭を下げる菊子。
日向は、「それはあにきに言えよ。あにきが買った皿だから」と言う。
菊子は顔を上げて、「はい。あの、目黒さんは?」と日向に訊ねる。
「あにきなら、今、リビングダイニングじゃねーの?」
そう答えて日向は戸棚からグラスを出すと、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、ミネラルウォーターをグラスに注ぐ。
「あの、私、目黒さんの所に行って来ます」
菊子がグラスのミネラルウォーターを立ちながら飲んでいる日向にそう言うと、日向は菊子に目も合わせず「勝手にしたら」と言う。
菊子はキッチンの扉へ向かい、日向を振り返り、「あの」と日向に声を掛ける。
日向は菊子の方を見ずにミネラルウォーターを飲んでいる。
「本当にありがとうございました」
そう言って小さく頭を下げて菊子はキッチンを出た。
一瞬日向がこっちを見た気がした菊子だった。
リビングダイニングはキッチンの直ぐ隣にある。




