雇い主の我がまま? 応えます。4
私ってなんてお馬鹿さんなんでしょう。
勢いに呑まれてとんでもない約束をしてしまった。
「はぁ」
もはや菊子はため息が止まらない。
あの時の雨の楽しそうな顔が菊子の頭を過って、それを消そうと菊子は大皿を、ごしごしと力を込めて洗う。
大皿は洗剤の泡で雲に包まれた様になる。
あの爽やかな笑顔は何なのよ?
目黒さんったら信じられない!
て言うか、目黒ブラザーズが信じられない!
本当、これから私はこの家で家政婦の仕事が果たして務まるのだろうか……。
でも、と菊子は思う。
女に二言は無いよな?
そういった時の雨の目。
あの目を見た菊子にあの瞬間、物凄い力が湧いて来たのだ。
やってやる!
という強い意思が湧いた。
そうしてその意志の力は直ぐに菊子を動かした。
どうしても、負けたくない、と思った。
あの瞬間は何だったのかと菊子は考えるが、答えは出ない。
結局、目黒さんの手のひらで踊らされたのか。
「はぁ」
また、ため息。
ため息と共に菊子は大皿を手から滑り落とした。
「ギョエーッ!」
菊子の口から奇怪な悲鳴が上がる。
シンクに落ちた大皿は見事に真っ二つに割れた。
「どどどど、どうしよう」
慌てた菊子は素手で皿を拾い上げた。
「痛っ」
菊子は割れた皿の切っ先で指の先を切った。
菊子の白い指先から赤い血が流れた。
ああ、もう本当にどうしよう。
菊子は何だか泣きたくなる。
「何騒いでるんだよ、家政婦」
日向の声がして振り向く菊子。
日向はキッチンの入り口に怪訝な顔をして立っていた。
「あ、日向さん。目黒さんのお風呂、もう済んだんですか?」
「ああ。あにきはシャワーだけだから。それよりどうしたんだよ。下品な大声が廊下まで聞こえてたぞ」
「あ、あの……私、お皿を割ってしまって」
しゅん、としながら菊子が言うと日向が「何だ、皿か。俺はてっきり……」と漏らす。
「てっきり、何です?」
菊子が訊ねると、日向は「何でも無い」と答える。
「どの皿?」
話をすり替える様に日向が言う。
「あの、これです」
菊子はシンクを指さした。
日向がシンクの方までやって来て割れた皿を見る。
「あんた、この皿、十万円」
「えええっ!」
菊子は眩暈を覚える。
菊子が額に手を当てると指先の傷口から溢れた血が額に付いた。
「あんた、怪我したのか?」




