家事が得意か? 普通です。6
「そんな事より、あにき、箸を三膳持っていったよな?」
険しい顔で日向が言う。
「ええ、確かに」
「もしかして、あにきのやつ、家政婦と一緒に夕飯食べる気でいるのか?」
「え?」
えええっ?
「いや、私、そんなつもりじゃあ……お二人の後でキッチンで頂こうかなと思っていたんですけど」
菊子が言うと「俺も家政婦と食卓を囲む気はさらさら無かったんだが」と日向が言う。
こっちこそ日向さんと食卓を共にする気はさらさらありませんと菊子は心の中で噛みつき、「いや、何かの間違いって事もあるじゃないですか! 目黒さんがうっかりお箸を三膳持っていっただけとか」と言う。
すると日向が「何だよ、家政婦! あにきがうっかり者だって言いたいのかよ!」と怒鳴る。
「いや、そうじゃなくて」
「何を騒いでるんだ?」
その声に菊子と日向はキッチンの扉に顔を向ける。
雨が呆気に取られた顔をして二人を見ていた。
「なぁ、あにき」
「ねぇ、目黒さん」
日向と菊子は二人同時に雨に話し掛ける。
なっ、またタイミングが合ってしまった。
不覚。
菊子は黙って日向に視線を送る。
お前が言えよ! の合図だ。
日向はちょっと嫌そうな顔をする。
仕方ねーな、と思ったか思わないかは不明だが、日向は、「あにき、さっき、箸を三膳持っていったよね?」と雨に訊く。
「ああ、持っていった」
頷いて言う雨。
「何で?」
問い詰めるように言う日向。
「何でって、三人で食事するんだから箸は三膳必用だろ」
さらりと雨は言った。
「めめめ、目黒さん。私、そんな……家族の団らんの場所に私なんかがっ! いけませんよ!」
そうだろ? ブラザー!
心の中で菊子はそう問い掛けた。
意味不明。
意味不明である。
「何で?」
雨が菊子に問う。
「何でって言われても……ねぇ、日向さん?」
ロボットみたいな動きをしながら日向の方へ首を動かす菊子。
日向は菊子と目が合うと、非常に気まずそうな顔をして、「えっ、えーっと……あっ、まぁ、あにきが家政婦と食事したいって言うなら……まぁ」と言う。
この、兄貴びいきが!
菊子の冷ややかな目を避ける様に日向は「俺、サラダ仕上げちゃうわ」とキッチンテーブルに振り返った。
「何だ菊子。俺達と一緒に食事するの嫌なの?」
悲しさを漂わせる雨の顔。
菊子の胸が、ちくりと痛む。
「と、とんでもない。是非! 是非ご一緒させて頂きたいですわぁ!」
「良かった」
雨が、にこりと微笑む。
くそ! この笑顔が曲者なんだわ。
気を取り直した菊子は味噌汁を温め直す事にしてコンロの方へ、フラリと向かった。
サラダが仕上がれば料理は完成だ。
菊子と日向、各々がそれぞれの仕事を複雑な表情を浮かべて行っている。
それを心の知れない雨は笑顔で眺めているのだった。




