家事が得意か? 普通です。5
扉の方を菊子と日向は、ぎくりとして見る。
「何だか楽しそうだな」
そう言って笑顔を浮かべた雨がいた。
「目黒さん」
「あにき」
菊子と日向は二人揃って声を上げる。
そして、声が合った事に二人揃って気まずそうにする。
雨は車椅子を、するりと動かしてキッチンの中に入って来ると「何をやってるんだ?」と二人に興味津々と言う様子で訊ねた。
「日向さんが」
「家政婦が」
またしても同時に喋る菊子と日向。
雨が、くすくすと笑っている。
「二人は息ぴったりだな。本当、仲良くやってるみたいで良かった」
雨は柔らかく目を細めて言う。
「ち、違う。たまたま被っただけだ!」
日向は慌てて雨にそう言う。
「そうですよ。たまたまです」
菊子も力強く雨に言う。
雨は可笑しそうに、「はいはい、分った。で、何してるんだ」と菊子と日向、どちらともなく訊ねた。
「あの、サラダを作っているんです。日向さんと一緒に。お夕飯の支度、日向さんが手伝って下さって」と菊子が答えた。
雨は、「へぇーっ」と言ってから日向に視線を向けた。
雨と目が合うと日向は雨からとっさに目を逸らす。
雨はやれやれ、と言った風に日向を見る。
「二人の楽しそうな声が廊下まで聞こえてたから何をやってるのかと思ったよ。二人で仲良く料理作りか。良いね」
「た、楽しそう? そうですか?」
菊子は果たしてそうであったかと思考を巡らせる。
確かにつまらなくは無かったな、と菊子は気付く。
日向と一緒に料理をしているうちに初めに感じていた気まずさも消えてしまった。
お互いの息が次第に合うのが心地よかった、と思う。
でも、楽しかった、と認めてしまう事は、何かいけない事の様な気が菊子はした。
「楽しそうだったよ。とっても」
雨が念を押す様に言う。
菊子と日向はお互いの顔を見合せて微妙な表情を見せあった。
「俺も何か手伝おうか?」と言ってから「出来る事があるなら」と雨が言う。
サラダはもう出来上がるし、車椅子の雨に手伝ってもらえる事って何だろう? と菊子は考える。
せっかくの雨の申し出を断るのは気が引けるのと同時に雇い主である雨に手伝いをさせるのは如何なものかという気持ちが菊子に湧く。
どうしたものだろう?
菊子は全く考えつかなかった。
「じゃあ、あにき、箸をテーブルに持って行ってくれる?」
そう日向が雨に言う。
「箸ね、了解」
雨は嬉しそうにして車椅子を動かすと棚の引出しから箸を三膳取り出してキッチンを出た。
雨の姿が見えなくなってから、「お箸なんかで良かったんですか?」と菊子が訊くと、日向が「何でも良いんだよ。あにきはやる事があれば何でも喜んでやる人なんだ」と答えた。
そういうものなのかしら?
菊子は首を捻った。




