桜舞う。買い物へ行く8
戸惑う菊子に雨が「菊子はお菓子の袋を持ってくれたら良いから」と言う。
「えっ」
重たい物は全て男に任せ、軽い荷物を持つ事に甘んじる。
さっきは男を立てる、とか思ったけど、何か百パーセントそういう感じになるの、嫌だ。
「ガキの使いじゃあるまいし、大丈夫です。お気遣はありがたく頂戴致しますが、あまり舐めないで下さい。私はこの荷物から家に着くまで手を離しませんからね!」
そう言うと菊子は雨を追い越して、すたすたと先を歩き出した。
後ろで雨の、ふふっと言う楽し気な笑い声が聞こえる。
菊子は頬を膨らましながら、ずんずんと進んだ。
やがて菊子に追い付いた雨が菊子の隣に並ぶ。
菊子が横目で雨の顔を見てやると、雨は何故か清々し気げな表情をしていた。
何よ、気持ちよさそうな顔しちゃって。
菊子の頬がさらに膨らむ。
こんな男に恋なんてするもんですか!
菊子の足が早まる。
そのスピードに雨が合わせる。
菊子は更に歩く速度を速める。
雨の車椅子のスピードも上がる。
「目黒さん、私、絶対にあなたに恋愛感情なんて抱きませんから!」
もはや駆け出す勢いの菊子は雨の顔を見ずにそう言った。
「俺も菊子に絶対に恋愛感情は抱かないよ」
のんびりとした声で雨が言う。
「はぁ、さようですか!」
「うん」
桜が風に舞う。
桜の花びらが二人に落ちる。
薄紅色の花弁。
たった今、恋に落ちない二人を柔らかな花びらが淡く染めた。




