桜舞う。買い物へ行く7
こんなの徒歩でどうやって持って帰るんだ、と菊子は憂鬱の極みだ。
「俺も持つから。菊子、安心しな」
雨が菊子の心を読んだかの様に言った。
「え、でも、どうやって……」
雨が使っている電動車椅子は買い物などに行く様なタイプでは無くて、コンパクトでスタイリッシュな物だった。
荷物置きは背もたれの後ろにあるにはあるが、申し訳程度の物である。
故に、荷物は膝の上に乗せるか、手押しハンドルにぶら下げるかしか選択肢は無い。
雨はどうするつもりなのか。
「お菓子が入ってる袋はハンドルに下げて、醤油とキャベツが入ってるやつは俺の膝に乗っけるから。菊子は残ったの持って」
うーむ。
重い物は率先して持ってくれる。
男としては、まず合格だ。
だからと言って、ときめきはしないが。
お互いに恋愛感情は抱かない事。
それが、菊子が雨の下で家政婦として働く条件であるが、優しいところを見せられても、お菓子売り場で無邪気にお菓子を選ぶ子供っぽい意外な一面を見せられても、今のところ菊子は雨にときめきを感じることは無かった。
この先、そんなシーンが訪れるのだろうか、なんて菊子は考えてみたが、馬鹿馬鹿しいと直ぐに頭から打ち消した。
菊子は、「でも、目黒さん、膝に荷物なんか乗せて車椅子の操縦は大丈夫何です?」と心配げに訊く。
「何年車椅子乗ってると思ってんだ。大丈夫だよ」
何てことない、そんな感じで雨が言った。
それでも不安だったが菊子は「分かりました」と頷いた。
男の顔は立てるもんでしょ(元ホステスの格言)。
スーパーを出て、二人は帰り道を歩いていた。
行きに強く吹いていた風は少し弱まっていた。
菊子は雨の後ろについて進む。
菊子は買い物袋を持つ手をたまに変えた。
でないと手が少し痛かった。
荷物、ちょっと重たいかも。
こりゃ、家まで地獄だわ。
「菊子、大丈夫?」
ふいに前から雨の声がする。
「大丈夫です」
大丈夫では無いけれど菊子はそう答えた。
「本当に大丈夫?」
「しつこいですよ! 大丈夫です!」
菊子は声を張り上げる。
雨の車椅子が急に止まった。
「きゃ! ちょっと、目黒さん、急に止まらないでくれます? 危ないじゃないですか!」
慌てて足を止めた菊子は雨に言う。
雨は後ろを向くと「荷物、持つよ」と言った。
「へっ?」
菊子から間の抜けた声が漏れる。
「もう片方のハンドルに菊子の荷物を下げて」と雨は言う。
「いや、でも、そんな事をしたら……」
そんな事をしたら菊子は手ぶらになってしまう。
それは流石にいかがなものかと菊子は思った。
雇い主である雨に買い物の荷物を運ばせて自分は手ぶらだなんて。




