桜舞う。買い物へ行く2
「それで……目黒さん。あの、そちらの方は?」
中山の目が菊子に向けられる。
突然、話題が自分になって菊子は焦る。
「あ、あのっ、わ、私は目黒さんのかせい……」
自分は雨の家政婦だ。
そう菊子が言おうとした時「ああ、彼女ですか。彼女は僕の友人です」と雨が口を挟んだ。
えっ?
と菊子は思った。
「まぁ、そうでしたの。こんな綺麗な方がお友達だなんて目黒さんも良いわねぇ」
「そうですね。彼女と友達になれてラッキーでした」
雨がそう言うと中山が、ほほほ、と笑う。
雨も、ははっ、と笑っている。
その光景を菊子はぼんやりとして眺めていた。
「じゃあ目黒さん、わたくしはこれで」
「はい、また」
シャネルのバックを持った手を振って中山が去って行く。
それを雨と二人で菊子は見送った。
中山の姿が視界から消えると菊子が口を開く。
「あの、目黒さん、さっきの、あれ、どういうつもりです?」
「何が?」
キョトンとしている雨。
菊子は少々呆れ気味に、「あの人に私の事、友達だって紹介した事ですよ」と言う。
菊子は現在、雨の家政婦である。
今一緒にいるのだって家政婦の仕事としての事だ。
それは雨だって分かっているはずなのに、どうして友人だなんて紹介したのか菊子には雨の気持ちがさっぱり理解できなかった。
「何かおかしな事、言ったかな。だって菊子は俺の友達だろ」
相変わらずの笑顔を浮かべて雨は言う。
「今は家政婦です」
不機嫌に菊子は雨に応戦する。
雨は奇妙な顔をして「自分で家政婦に雇っておいて何だけど、まだ菊子がうちの家政婦だって実感が湧かないんだよ。菊子の事、家政婦だなんて思えない。俺には菊子は大事な友達だよ」と言う。
その台詞を聞いて菊子は額に手を添えて、ため息を吐き出した。
「もう。目黒さんには敵わないわ。今日から目黒さんの家政婦なんだって息巻いてたのが何だか馬鹿らしくなって来たわ」
「そりゃ、やる気をそいで悪いことをしたな」
「今更遅いです」
菊子は、実は結構緊張していたのだ。
友達とは言え家政婦なんて仕事を頼まれて、ちゃんと全う出来るだろうかと菊子の頭は疑問で膨らんでいた。
しかも、日向と言うお目付け役までいる。
失敗は許されない気がして心臓が縮む思いでいた。
たかが買い物さえも、ちゃんとできるかどうかと不安であったのだ。
目黒さんが、そのつもりなら気を張る事無い。
私のペースで頑張ればいいんだ。
菊子は、ほっとして体から力が抜けた。
随分と体に力が入っていたものだと菊子は思った。
肩が、がちがちになっているのが笑えて来る。
本当に笑いだしそうだった。
「あの、ちなみに、さっきの方はどういう方だったんですか?」




