桜舞う。買い物へ行く1
菊子が雨に追い付くと雨が車椅子の速度を緩めた。
菊子は弾む息を整えながら雨の隣にそっと並んだ。
街路樹の桜の花びらがシャワーみたいに舞い落ちる道を二人は並んで歩く。
「こうして明るいうちに菊子と外を歩くなんて久しぶりだな」
雨が言う。
「そうですね。何だか新鮮な感じがします」
菊子と雨はたいがい夜のBARで時間を共に過ごす事が多かったので日のあるうちに会う事は無いに等しかった。
日の光の下で見る雨は、白い肌が眩しく光って、どこか儚げだ。
夜に見るミステリアスな雰囲気を纏った姿とは異なって、アンバランスに菊子には見えた。
このアンバランスさも女を引き寄せる魅力の一つなのかしら?
と菊子は考える。
異様にモテる雨。
それは雨がお金持ちだからだけではなくて魅力的な人物であるからである事は菊子も分っている。
しかし、菊子はその魅力に引きずられない。
友人としては、勿論、雨の魅力に惹かれている。
だが、その魅力が雨を恋愛対象として見る材料にはならなかった。
どうしたらこの男を好きになるんだろう?
そんな事が菊子の頭を過った瞬間、雨と目が合う。
菊子は、びくりとした。
「どうした? さっきから俺の事じーっと見て。もしかして俺の事好きになっちゃった?」
雨の冗談に菊子は、「ままままっ、まさか!」と顔を赤くして慌てて答える。
そんな菊子を雨は笑って見上げるのであった。
もう、本当に何なの?
この男は!
絶対に好きに何かなるもんか!
菊子は密かに闘志を燃やした。
「あら、目黒さん」
ふと声が掛かる。
雨が車椅子を止めた。
菊子も足を止める。
声の主がこちらへ近付いて来る。
相手は薄茶色に染めた長い髪にゆるいパーマを当てた四十代後半位の女性だった。
「こんにちは、中山さん」
雨が女性ににこやかに挨拶する。
女性は中山と言うらしい。
「今日はお出掛けですの?」
中山が高い声で言うと雨は、「ええ、これから買い物へ」と静かに答えた。
「まぁ、そうですの。今日は風が少し強いけど、良いお天気ですから出掛けるには丁度いいわ。目黒さんも買い物に行くのも気晴らしになって良いかも知れませんわね」
そう言って中山は車椅子に座る雨の足を、ちらりと見た。
「はい、そうですね」とにこやかに雨。
この中山と言う人物、雨とどういう関係なのかと菊子は困惑の表情を浮かべて二人のやり取りを見守る。




