雨と日向の関係4
敵わないな、目黒さんの笑顔には。
菊子は心の中で呟く。
目黒さんって、誰に対しても、こんな風にして笑うのかしら。
だったら何?
と菊子は考える。
「菊子、どうした。怖い顔してる」
不意に訊かれて、はっとした菊子は取り繕う様に残りのピザに手を伸ばす。
「別に、何でも無いです。怖い顔なんてしてません。目黒さんの気のせいです」
「本当にそう?」
「しつこい! うっ!」
食べながら喋っていた菊子は喉にピザを詰まらせた。
急いでペリエを瓶に口を付けて喉に流し込む菊子。
「お前、何やってるんだよ! 大丈夫か?」
雨が慌てる。
「ゲホッ……大丈夫です……」
涙目の菊子を、雨がやれやれと言う様に見ている。
菊子は恥ずかしさを誤魔化すようにピザに再び齧りついた。
「菊子」
「何です?」
「顔にチーズが付いてる」
「えっ」
菊子は自分の口元を探る。
「そこじゃない。左だ」と雨。
菊子は左側の唇の近くを探ってみる。
しかし、チーズの存在を掴めない。
「もっと上」
雨に言われて指先を動かす菊子。
「いや、もう少し下だ」
雨はじれったそうに言う。
「えっ? えっ? どこ?」
菊子は自分の口の周りを撫でまわす。
「仕方ないな」
そう言って雨は車椅子を動かした。
雨は菊子の側まで来ると指先で菊子の唇の直ぐ近くを拭う。
「取れた」
そう言って雨は指に付いたチーズの欠片をばくりと食べてしまった。
その様子に菊子は唖然とする。
何が起こったのかを理解するまで数秒。
「ななななっ、何やってるんですか!」
顔を真っ赤にした菊子に雨は、きょとんとした顔で「何って、何が?」と問う。
何がって何よ。
この男、とんでもないわ。
頬を膨らませる菊子を雨は「面白いやつだな」と笑うのだった。
さっきまでのしんみりした雰囲気はこれにて払拭されたのだった。




