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34. いつまでもお若いです


 仲が良くいつも一緒だった双子たちは成長し、別々の道を歩むことになった。



「Ave Maria, gratia plena,

Dominus tecum,

benedicta tu in mulieribus,

et benedictus fructus ventris tui Jesus.

Sancta Maria mater Dei,

ora pro nobis peccatoribus,

nunc, et in hora mortis nostrae. Amen」


 青白い炎が悪霊を包み込み、耳をつんざくような断末魔の叫びと共に強制的に永遠の地獄(ゲヘナ)へ送り込んだ。


 姉のアリエルは上級聖職者の司祭となったが、心配性の母には内緒で各地の悪霊たちを祓うエクソシストとしても活躍している。



 一方で弟のラファエルは父と同じ騎士の道へと進み、今では騎士隊長としてミカエル騎士団長を支えている。

 剣の腕はミカエルの血を引き継いでおり、厳しい稽古を課す父に負けじと対抗してめきめきと上達しているという。


「騎士団長、久々に手合わせお願いします」

「いいだろう」


 騎士団駐屯地の訓練場で二人が揃えば、ミカエル騎士団長とラファエル騎士隊長の切り結ぶ姿が見られると、職務をそっちのけで騎士たちが見物に集まるほどの両者圧巻の剣技であった。





「マリア、リュシエンヌは最近体調が優れないのか? 顔色が悪いように見えるが」


 ファブリスは近ごろ青白い顔をしていることも増えたリュシエンヌを心配し、普段リュシエンヌに付きっきりのマリアへと問うた。

 リュシエンヌは四十をとっくに過ぎた歳となっていたが、若々しい美貌は昔と変わらないように見えた。


「実はね、ミカエルがやらかしたみたいよ」

「なになにー? ミカエルがやらかすって珍しいね。もしかして不貞とか?」

「まさか! エミール、そんなこと言うならミカエルに言いつけるわよ」

「マリア、勿体ぶらずに我に教えろ」


 笑いを噛み殺すマリアに業を煮やしたファブリスは低い声と鋭い視線で答えを促した。


「三人目よ、三人目。ヤンチャな双子たちのお世話は大変だったからね、ミカエルもリュシエンヌを慮って三人目は作らないって言ってたくせに」

「はあー……。また僕の子守が始まるのか。それにしても、リュシエンヌがいくら若々しいからってミカエルの執着にはビックリだよね」

「なんだ。我はもしやリュシエンヌの体が悪いのかと懸念したではないか」


 ファブリスはリュシエンヌが悪い病などではないと知り、心底安堵したのだった。

 これほど長年傍で見守っていれば幽霊と人という違いを跳ね除け、まるで家族のように思えるのである。


「ほら、見てよ! またくっついてる! 僕なんか最近リュシエンヌに近寄るだけでミカエルから害虫を見るような目で睨まれるっていうのに!」

「それはエミールがリュシエンヌの寝台に潜り込んだり抱きついたりするからでしょう。本当に命知らずね」

「そろそろリュシエンヌの知らないところでミカエルに祓われてもおかしくはないな。エミール、今までご苦労であった」

「やめてよ! 僕は三人目の子守をしなきゃならないんだから」


 ギャーギャーと話す幽霊たちの声はミカエルには筒抜けであったが、なんだかんだで憎めない幽霊たち(主に悪いのはエミールだが)を祓うつもりはない。

 三人目が生まれたらまた子守でもしてもらって、リュシエンヌが少しでも楽になれば良いと考えていた。


「ミカエル様、幽霊たちが何か騒いでいますね」

「気にするな。我々の三人目の子が生まれることを楽しみにしているらしい」

「そうなのですか。……この歳でまさか子ができるなどと思わなかったので嬉しいです」


 そう言ってはにかむ笑顔を浮かべた愛妻に、ミカエルは昔と変わらぬ熱い視線を送り耳元で囁いた。


「悪かったな。それでも、リュシエンヌはいつまでも若く美しい。そんなリュシエンヌを私が毎夜手放せなくとも仕方のないことだ。暫くは抱擁で我慢するが、時期が過ぎればまた……」


 リュシエンヌは未だ整った美貌が健在のミカエルが、このように毎日自分への愛を囁くものだから、その都度頬を染めていた。

 

 そしてそれでも結局はコクンと頷くのであった。









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