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25. 牢の中の不埒者


 マルクはリュシエンヌの殺害共謀だけでなく、何人もの令嬢や市井の女を手籠(てご)めにしていた。


 侯爵令息という名をかさにきて好き勝手に快楽を貪った結果、傷ついた女たちの告発により逮捕された。

 しかし、この告発は元々泣き寝入りしていた女たちを()()()()()()()実現したものであった。


 そして特に国王陛下の甥であるミカエルの想い人を亡き者にしようとした罪は重かった。


 騎士団は騎士団長の徹底的な味方であるから、証拠集めも自白を引き出すのも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかしそれはそれまでのマルクの騎士団での立ち居振る舞いが招いたことでもあったから、誰一人として気の毒がる者は居なかった。


 マルクが出頭命令を受けた時点で、マルクの実家であるパンザ家はマルクを勘当した。

 いくら侯爵家とはいえ、ミカエル・ディ・ペトラを敵に回してはマルクを庇いきれなかった為、パンザ家への飛び火を恐れて出来の悪い次男を切ったのだ。


 こうしてマルクは侯爵家の後ろ盾を失い、騎士としての立場も失って、ただのマルクとなった。


 そしてマルクは裁判によって終身刑に処された。



「何故こんなことに……」


 大変な好色家であったマルクは、ただ一人で長い時間を牢で過ごすことになる。

 それだけでも彼にとっては苦痛だが、時々彼の牢では怪奇なことが起こり、マルクを苦しめた。


「まただ……! また俺を苦しめるのか……!」


 マルクの牢の壁には時々血のような緋い文字が浮かび上がる。


『全てはリュシエンヌの為に』


 「リュシエンヌ、すまなかった。許してくれ!」


 そうして文字が浮かび上がれば、牢の中にラップ音が鳴り響き、物は宙を舞い、そして誰かがマルクに触れるような感触を覚えた。


 マルクはこの怪奇現象が起こる度に半狂乱となり、次第に様子がおかしくなっていく。


「ねえ、コイツ生かしといていいの? やっぱり殺しちゃいたいんだけど」

「ダメよ。あんまり殺し過ぎるとまたリュシエンヌが私たちの仕業だと気づいてしまうわ。リュシエンヌに嫌われてもいいのかしら?」

「えー。それはやだなぁ。じゃあ我慢する!」


 マリアとエミールはこうやって時々牢に()()()()()()マルクにお仕置きをするのだった。




 いくらマルクが謝っても、また数日もすれば怪奇現象が起こるのだ。


 それはファブリス、マリア、エミール、そしてローランが順番にこの牢へ遊びに来ているせいなのであるが、そんなことは誰にも知られずに『マルクは牢に入れられ、女遊びが出来なくなったせいで気が狂った。本物の不埒者だ。』と不名誉な噂が看守から外に広がり、結局マルクの実家である侯爵家も社交界では恥をかき、肩身の狭い思いをするのであった。


「ファブリス、しばらくは退屈しない玩具ができて良かったね」

「エミール、お前は一見害の無さそうな幼な子だがなかなかの加虐性愛者だ。我らの中で一番残虐なのはお前だろうよ」


 そして今日もファブリスとエミールがマルクの牢へと遊びに来ていた。

 牢の中のマルクは段々と痩せこけ、怪奇現象による恐怖からの不眠の為に目の周りは落ち窪んで隈ができている。


「うわー。ひどいなぁ。そういえば、僕って確かそれが原因で母親に殺されたんだった。それなのに、結局死んでも性格は治らないんだよね」

「リュシエンヌも、お前のそのようなところを知れば怖がるかも知れんぞ」

「そんなの、バラす訳ないじゃん。リュシエンヌは可愛くて優しくて、いい匂いがして本当に大好きなんだ。ファブリスも、余計なこと言わないでよ」


 プウっと頬を膨らませて可愛い怒り顔をするエミールに、ファブリスは呆れた顔で首を左右に振った。


「まあ、我も同じようなものだからな。民たちを虐げ、他国を侵略し非道で残虐な王として処刑されたのだから」


 ファブリスとエミールは牢の中のマルクの変貌に、至極満足気な笑みをたたえて飛び去って行った。









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