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20. 告発、告白します


 そのうちサロンの扉が開いて、ダイアナが顔を出した。


「煩いわね。昨日も遅くて二日酔いなんだから静かにしてよ」

「お母様! 聞いて! ミカエル様とリュシエンヌが婚約したんですって!」

「はぁ? リュシエンヌはマルク様と婚約してたでしょう」


 気怠そうに頭を押さえながら酒の匂いをさせ、夜着のままでストールだけを肩にかけ現れたダイアナは、堕落していてとてもまともに家政を取り仕切れているとは思えなかった。


「ダイアナ、二日酔いか?」

「そうなの。朝までパーティーがあったのよ。今から寝ようと思っていたらポーレットの声で眠れなくて」


 伯爵の問いに悪びれる様子もなく答えるダイアナを見て、伯爵は今まで邸に寄り付かずダイアナに家政を任せきりにしていたことを悔いた。


「だってお母様が! きちんとお父様に私とミカエル様の婚約をお願いしてくれるって言ってたじゃない! どうしてこうなるのよ!」

「私は頭が痛いのだからそんなに喚かないでちょうだい」


 リュシエンヌのためにと迎えた二度目の妻と妹は、リュシエンヌのためどころか害悪でしかないのだと、やっと伯爵が気づいたことに邸に残った元家令のローランはそっと拍手した。


「お前たち、いい加減にしろ」


 伯爵は普段は穏やかな性格であったから、このような厳しい声をあげることはなかった。


「ダイアナ、まともに家政を執り仕切ることができないのであれば社交は控えめにしろ。ポーレット、姉の婚約者を欲しがるなどと破廉恥なことはやめるんだ」

「貴方! 私だってきちんとすることはしていますわ!」


 そう言ってダイアナが逆上した時、伯爵の足元にどこからか何枚もの書類や請求書、帳簿が飛んできた。

 突然滑り込むように現れたそれらを伯爵は訝しく思いながらも拾い上げよく見た瞬間、ダイアナが犯してきた悪事を理解した。


「ダイアナ、これは何だ? 宝飾品、仕立ての請求書、その他にも本来支払うべきところに払わずにお前とポーレットの贅沢のために多額の金を使っていたのか。娘たちのことも放ったらかしで、一体毎日何をしてきたんだ。二日酔いで使用人たちへの指示すらもきちんとできていないと耳に入っているぞ。家政を執り仕切るしっかりとした後妻をと私は再婚の際に言ったはずだ」


 伯爵がダイアナを強く問い詰めると、ダイアナは急に弱気になって狼狽えた。


「……ごめんなさい。貴方、これからはきちんとしますから許して」

「今度同じようなことがあれば、離縁することになるからしっかりと覚えておきなさい。あと、社交はしばらく禁止とする。誘われても体調不良とでも言って断るんだ。ポーレットも合わせて暫く買い物も控えるように」

「そんな……!」

「いいな! これは決定事項だ」


 ダイアナは一時的に社交を取り上げられることよりも、伯爵と離縁されて貧しい暮らしになることの方を恐れたのでそれ以上何も言わなかった。


 しかしあまりの伯爵の怒りっぷりに、はじめは青筋を立てながらも堪えていたポーレットは次の言葉を聞くなり激昂した。


「これからリュシエンヌはミカエル・ディ・ペトラと婚姻を結ぶことになるのだから、騎士団長の妻となるリュシエンヌの恥とならぬように我々は重々気をつけなければならない」

「アハハハハ! そんなこと知ったことじゃないわ! 贅沢をし過ぎだと口うるさい家令を消してからは思い通りに暮らしてきたのに! あの女が私のミカエル様を奪うから! 私の人生設計は滅茶苦茶じゃない!」


 伯爵はポーレットの言葉を聞くなり目の前が真っ暗になった。

 この義理の娘は過度な贅沢をし、姉の婚約者を寝取ったばかりか、新しい姉の幸せを平気で壊そうとしている。


――そして伯爵もリュシエンヌも家族のように思ってきた家令のローランは、このポーレットに殺されたのだ。


「お前がローランを殺したのか?」

「そうよ! あの煩い家令はお母様が隠していた帳簿や請求書を見つけて、『贅沢はお控えください。』だなんて言うものだから階段から突き落としてやったわ! ゴロゴロと転がって、やがて不恰好な姿勢のまま死んじゃったの! 可笑しいったらありゃしない!」


 笑いながら饒舌に語るポーレットは狂気に満ちた目をしていて、伯爵は思わずダイアナを見やった。

 しかし、母であるダイアナは普段から娘のことなど全く気にかけていなかった為にその事実を知らなかった様子で愕然としている。


「なんて事だ……」






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