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17. ローランがもうすぐ


「そうか……ありがとう」


 ミカエルはリュシエンヌに手を伸ばそうとしたが、バルコニーの手すりに腰掛けてこちらを見つめる()()()()が目に入り、その手を下げた。


「それでは早いところパンザにリュシエンヌ嬢と婚約破棄をするように働きかけることにしよう」

「はい……」


 リュシエンヌはまだ信じられない思いでミカエルを見つめていたが、実感が湧いたところで頬を赤く染めた。


「リュシエンヌ……。ああ、あんなに可愛らしいお顔で照れているわ。本当に愛らしい子。食べちゃいたいわね」

「マリア、リュシエンヌが減るからやめて。そんなことできるなら僕がすでに食べてるよ」

「お前たち、物騒なことを申すでないわ! 隣の家令がお前たちを祓い殺しそうなほど睨んでおるぞ」

「せっかくお嬢様がお幸せそうだと言うのに、あなた方は何をおっしゃっているのか。許しませんぞ」


 階下のマルクは既にこの家の使用人たちによって拭きあげられ、侯爵家の馬車に乗せられ帰された。


「リュシエンヌ、屑は先に帰ったぞ。其方はミカエルに送ってもらえ」


 ファブリスがそう伝えると、ミカエルはリュシエンヌを今から邸へ送ると言った。





「ミカエル様、申し訳ありませんでした。送っていただいて」

「いや、気にしなくていい。それでは、また」

「はい。おやすみなさい」


 リュシエンヌを伯爵邸の前まで馬車で送り届けたミカエルは、抱き寄せたい衝動を我慢した。

 まだリュシエンヌは書類上はマルクの婚約者であり、そのようなことをすればリュシエンヌの醜聞になりかねない。


 そうして、軽く挨拶を交わしたらミカエルは公爵家の馬車で帰って行った。


「お嬢様、ようございましたね。きっとミカエル様ならお嬢様のことを幸せにしてくださいますよ」

「ローラン、これで良かったのかしら。まるで夢のような話だわ」

「何をおっしゃいますか。お嬢様が幸せな花嫁となるのも時間の問題ですぞ」


 そう言って笑う家令にリュシエンヌも微笑んで返した。

 しかし、もしそうなればもうローランとお別れなのだとリュシエンヌは寂しくもなったのである。

 ローランの心残りはリュシエンヌが幸せな花嫁となることであったから、それが叶えばローランは天国へと行ってしまうのだ。


 はじめはあんなに望んでいたことなのに、いざ叶うかも知れないと思えば切ない気持ちになったのだ。


「ローラン、なんだか寂しいわ。貴方がいなくなってしまえば私の味方はどこにいるの?」

「リュシエンヌお嬢様。これからはミカエル様がお嬢様を守ってくださいます。それに、旦那様もお嬢様への気持ちが変わられたようですから。これからはもっと親子らしい時間を過ごせますよ」

「そうかしら」

「はい。それに私がいなくなっても、ファブリスやマリア、エミールもいますよ」

「そうね。私、幽霊が見えるようになって本当に良かったわ。幸せよ」


 リュシエンヌと家令のローランはそう言ってひんやりとした抱擁を交わした。

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