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16. 幽霊も認める人間性とは


「ミカエル団長、失礼します」


 その時バルコニーのカーテンが開き、髪型が少し乱れたマルクが現れた。


「ポーレット嬢はしばらくこちらには来ないでしょう。自分がしっかりと追いやって参りました」


 さも自分が追い払ったから褒めろと言わんばかりのマルクだったが、その後休憩室でよろしく()()()()やっていたことをこの場の全員が知っていたので、バルコニーの空気はひどく冷たかった。


 それに、今とても大切な場面だったにも関わらずタイミング悪くやってきたこの屑に、リュシエンヌ以外の全員が殺意を向けたのは言うまでもない。


「え? え! ……あれ? うわー……ッ!」


――ドボーン……!!


 ここ二階のバルコニーの手すりのあたりまで幽霊たちが協力して力づくでマルクを押し、そのまま下にある庭園の池に突き落としたのだ。


「あのような屑には頭を冷やすのにぴったりの場所だな」

「うわー。見てみて! あの屑、たくさんの魚に突っつかれているよ!」

「ふふっ……まだ水浴びには早い時期なのに大変ね」

「ここの使用人はえらく優秀ですな。あのように不測の事態にもテキパキと対応出来るとは……」


 幽霊たちは下を覗きながら楽しそうに笑い、そしてバルコニーから下の庭園にある池の方へと飛んでいく。


 びしょ濡れとなったマルクは訳が分からず呆然としているが、この邸宅の使用人たちはテキパキと救出して身体を布で拭き取っている。

 その布を幽霊たちはそこら中に散らばしたり、マルクを再度押して池に落としたりと好き勝手にしていた。


「あいつら……」


 額に手をやり脱力した様子のミカエルは、思い出したかのようにふとリュシエンヌの方を見た。


 リュシエンヌはその青い瞳でミカエルの方を見つめたままで、石のように固まってしまっている。


「リュシエンヌ?」

「はっ……! 申し訳ありません! どこか別のところに意識を持っていかれたような気がして……。あれ? マルク様はどうなさったのですか?」


 リュシエンヌはミカエルの告白により、立ったままで気絶していたらしい。

 そんなリュシエンヌをミカエルは可愛らしいと、より愛しく思った。


「パンザは去った。幽霊たちもいないし、良ければ返事を聞かせてもらえないか?」


 そう言ったミカエルは紫目を妖しく光らせてその顔に壮絶に美しい微笑みを浮かべたのだった。


「え……っと。ミカエル様はとても素敵なお方で、初めてお会いした時にローランのことや幽霊のことを話してくださってから、私はミカエル様のことを特別なお方なのだと尊敬しておりました。だって、幽霊たちも皆ミカエル様のことを好いているのです。幽霊たちに嘘は通用しません。悪い方ならば全てバレてしまう。それでも、このネックレスを身に着けてからも色々な幽霊たちは皆ミカエル様のことを昔からとてもお優しい方だと……」

「私の話を幽霊たちから聞いたのか?」

「……申し訳ありません。どうしても、気になってしまって……。それでも皆言うのです。『ミカエルは努力家で、優しくて、そして強い』と。『幽霊が見えても怖がることなく向き合ってくれる』と」


 リュシエンヌはこの水晶のネックレスをもらってからは常に身に着けるようにしていたから、ローラン以外の幽霊たちと話すことも多かった。


 幽霊の見える人間はなかなかいないから、皆自分のことを知って欲しくてミカエルやリュシエンヌに近寄ってくるのだ。


 リュシエンヌも最初は驚いたが、同じ光景をミカエルは幼い頃から見ていたのだと思えば怖くなかった。

 それどころか、幽霊たちに向き合うことはなかなか大変なのだと知った。

 

「私もいつの間にかミカエル様に、恐れ多くも惹かれていたのです」


 マルクのような不誠実な婚約者よりも、幽霊にさえ好かれるほどの人格者であるミカエルはとても魅力的だった。


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