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11. 伯爵の思い


 リュシエンヌとポーレットの父親であるクレメンティー伯爵は仕事人間で、王城勤めの官僚であったため最近ではほとんど邸に帰ることはなかった。


 愛する妻に病気で先立たれ、残った娘リュシエンヌは成長とともに妻に似てきた為、邸に帰ることが辛くなったのだ。

 そのため本当は帰ることはできても、仕事で帰れないことを理由に邸にほとんど帰らなくなった。


 優しくて賢い妻のことはとても愛していたが、邸のことはよく出来た妻にまかせきりとなり自分は仕事に邁進していたため妻の体調の変化に気づかなかった。

 そうして妻は早くに儚くなった。


 伯爵を責めるものはいなかったが、妻に似た娘を見るたびに責められているような妄想に取り憑かれた。


 娘のことは頼りになる家令ローランに任せきりにしていたら、娘もローランに懐いてすくすくと育った。

 なおさら自分はこの娘にとって必要な存在ではないと思うようになる。


 ある日ローランから「私も歳を取ったのでお嬢様に家政の取り仕切りをお願いしても良いか」と聞かれた時、娘にそんな苦労をさせてまた病気にでもなっては困ると思い、しっかりと家政をこなせる未亡人(ダイアナ)と再婚したのだ。


 ダイアナは娘が一人いて、リュシエンヌより一つ年下で名はポーレットと言う。

 妹ができればリュシエンヌも寂しくないだろうと、ポーレットは年も近いし可愛らしい娘だから、きっとリュシエンヌとも仲良くできると考えたのだった。


 再婚してからは家政をダイアナに任せ、リュシエンヌは妹ができて嬉しいと喜んでいたから、安心して伯爵は仕事に集中することができた。


 伯爵は大臣の補佐官をしていたから多忙でも給金は良かったし、やりがいはあったのだ。

 クレメンティー伯爵領の領地経営は弟に任せて、自分は官僚の仕事に邁進することでリュシエンヌに対し父親としての存在意義を保っている気がしていたのである。



 それなのに、久しぶりに邸に帰るとリュシエンヌの様子がおかしいことに気づく。

 会えば伯爵と笑顔で会話をするが、ポーレットとはあまり話をしないように見えた。

 姉妹になったのも最近であるから喧嘩でもしたのかもしれないと思い、伯爵は妻のダイアナに尋ねてみた。


「さあ? 年頃ですからそんなものじゃないですか。それより、ポーレットの婚約のことなのですが、ポーレットはミカエル・ディ・ペトラ公爵令息との婚約を望んでいるのです。貴方から公爵家に申し込みをしてくださいな」

「ミカエル・ディ・ペトラだと?ミカエル騎士団長か。あの方は王弟殿下の息子であり、国王陛下の甥っ子だぞ。そのようなお方に私のような伯爵風情がおいそれと婚約の申し込みなど出来るわけがなかろう」

「あら、貴方は大臣の補佐官でしょう。それくらい国王陛下にでもお願いしてくださいな」


 伯爵は賢いと思っていたダイアナが、娘の婚約のことで荒唐無稽なことを言ってきたことに心底驚いた。

 この妻はこのような女だったかと、再婚前にはもっと頭の良いきっちりとした人柄だと思っていたのにと。


「無理を言うな。それよりもリュシエンヌが元気がないようだ。最近変わったことはなかったか? ローランが亡くなってから落ち込んだ様子は見られたが、お前とポーレットが来て少し活気を取り戻したと思ったんだが」

「変わったこと? 最近頻繁に王立図書館へ出かけていますわね。あとは……マルク様とあまりうまくいってないようですけれど」


 ダイアナはリュシエンヌにも、実の娘ポーレットにさえあまり愛情深い母親ではなかった。

 ダイアナの興味のあることは、着飾ることとサロンで他の貴族と交流を深めること。

 それを楽しむ為に、この裕福な伯爵と再婚したのだから。

 だから娘たちが元気にしているかどうかなど大して気にしていなかった。

 何かあれば言ってくるだろう程度の感覚なのだ。


「マルク殿と? それが原因か。何故うまくいっていないんだ?」

「知りませんよ。本人に聞けばいいじゃないですか。とにかく、ポーレットの婚約話を頼みましたよ」


 ダイアナはそれだけ言い捨ててさっさと自室に戻って行った。


 伯爵はため息を一つついてリュシエンヌの部屋へと向かった。




 

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