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1. 子リス令嬢と呼ばれる妹は好色でした


「ローラン、マルク様はもういらっしゃってるの?」

「はい。今はポーレットお嬢様のお部屋においでです」


 リュシエンヌの問いに、完全なる白髪で老齢となったにも関わらずリュシエンヌの傍に姿勢良く立つ家令のローランは間髪入れずに答えた。



 リュシエンヌの婚約者マルク・ル・パンザ伯爵令息は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()義母の連れ子ポーレットに夢中になっている。


「はあ……。一応マルク様の婚約者は私なんだけど、忘れてしまったのかしら?」

「伝えて参りましょうか?」

「いいわよ。二人が今何をしてるかなんて知りたくないもの」


 ポーレットはブラウンの瞳にピンクブロンドの髪色という甘い色味をしており、歳よりも幼い顔立ちでとても甘え上手であったから『可愛らしい子リス令嬢』と言われ令息たちにも人気がある。

 それは性的な意味での人気ということであったが、義姉であるリュシエンヌにはそのような要素はなく、どちらかというとその澄み切ったブルーの瞳とプラチナブロンドの髪色も相まって、落ち着いた表情が高潔で冷淡な印象を与えがちであった。


 とにかく異性に甘い言葉をかけ、身体に触れるポーレットは義姉であるリュシエンヌの婚約者マルクをも籠絡していた。


「マルク様も、どうせなら私と婚約破棄してポーレットと婚約してくだされば良いのに」

「遊び相手には好色なポーレットお嬢様が良いのでしょうが、頭は残念なお方ですからね。婚約者としては不向きだと考えてらっしゃるのでしょう。それに、マルク様はこの家の婿養子になりたいようですし。次女であるポーレットお嬢様ではそれも叶いません」


 マルクは好色家な上に狡猾で、努力が大嫌いなろくでなしであった。

 婚約破棄できるものなら是非したいものだとリュシエンヌは思っていた。


「もう待つのも馬鹿馬鹿しいから出掛けてしまいましょう。今日は王立図書館に行こうと思っていたのに、時間の無駄だわ」

「承知いたしました」


 リュシエンヌはマルクを待つことをやめ、家令のローランと共に自室から出て玄関へと向かった。


「リュシエンヌ! 折角俺が来ているというのに()()()()()()()()()どこに出掛けようとしているんだ?」

「あら、マルク様。貴方がポーレットの部屋からなかなか出ていらっしゃらないようでしたので、待つことは時間の無駄だと思い今から王立図書館へ行ってこようかと」

「べ、別にポーレット嬢とやましいことはない。……相談事に乗っていただけだ。図書館ならば俺も行こう。令嬢が供も付けずに一人で出歩くものではない」


 マルクは妹のポーレットと懇ろになっている割に、婚約者としては姉のリュシエンヌの方が自分に相応しいと思っていたのでリュシエンヌに対しても上辺では婚約者としての態度を崩すことはない。

 奔放な妹と対照的な婚約者に対しては、今のところ不埒な真似をすることもなかった。

 


「……分かりました」


 リュシエンヌはこのろくでなしの婚約者の事を鬱陶しく思っていたが、家同士で決めた婚約者であることから自ら大事にする気はなかった。


「リュシエンヌお嬢様。ポーレットお嬢様が窓から覗いてらっしゃいますよ。お手をお振りになっては?」


 ローランがそう言うものだから、リュシエンヌは遠く離れた邸の窓からこちらを見下ろしているというポーレットの部屋の方へ向けて()()()()手を振った。

 そうすると、ポーレットは驚いたような表情をしてからカーテンを勢いよく閉めたのだった。


「こちらから見えているとは思わなかったようね」


 驚いたポーレットの滑稽な顔を思い出してリュシエンヌはフッと笑った。


「ん? 何か言ったか?」

「いいえ、マルク様。参りましょう」


 こうしてクレメンティー伯爵家の馬車にリュシエンヌとマルク、そして家令のローランが乗り込み王立図書館へと向かった。






 


 

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