コハクの愛《外伝続き》
『すまなかった、その胸の傷は俺の責任だ、一生懸けて償いたい。』
て、サトルに言われたけど、あの雰囲気は告白じゃなくて、贖罪というか責任感というか。
すれ違いざまに話す程度だけど、頭の中にずっと居るような感じ。
失恋して、もう次なの?気付けばサトルに目がいってしまう。
百合子さんへの好きっていうのは、こんなもんだったのか?
頭の片隅でモヤモヤしたものを残しながらの追い討ち。
『付いてきてくれないか?』
『春の終わりには出発する。』
もう会えないみたいな言い方じゃないか、胸の傷が痛む。
何をしてても上の空。
誰にも相談出来ないし。
気付けばもう明日、どうすれば・・・
サトルへの想いとやらは、なんなんだろう?
そんな事を考えながら宿舎の裏を歩いていると、オッドアイの白猫を発見した。
総一郎んとこの飼い猫モチ。
変わった目をしてるね、左右の色が違う。
君には何が見えてるのかなぁ。
見たいモノしか見えないのがワタシの悪い癖。
しゃがみこんで、問いかける。
「モチちゃんよ、愛ってなんだろうね?」
「にゃ?」
「同じ猫科同士、会話出来ないもんかなぁ?」
モチの顎を下からくすぐる。
「にゃー。」
「付いてきてくれないかって、ずいぶん勝手な言い方だと思わない?ワタシにだって色々あるのよぅ。」
「ほぅ、どんな事があるんだ?」
「ほわっ!しゃべった?」
尻餅を付くと後ろに気配を感じ、振り向くと、トワコさんが立っていた、腕組み、煙草のいつものスタイルだ。
「なんだ、トワコさんかぁ、びっくりしたぁ。」
「ここ最近元気ないな、猫科ではないが会話は出来るぞ。」
聞いてたのか?ワタシの独り言を。
「サトルが出ていくって・・・」
「あぁ、私が推薦した、ここに居続ける事がサトルにとって良くないと思ったからな。」
トワコはさらに言葉を続ける。
「ここに居れば、平和だし、楽しいだろうな、でもアイツはそれで満足しない。アイツはもっと前へ、上へ突き進むぞ、そして、必ず挫折する。」
「挫折・・・」
ワタシは反芻する。
「必ずする。アイツは苦しむぞ、二度と立ち上がれないかも知れないな、その時、おまえはどうする?」
「ワタシは・・・・」
トワコさんは一言添えて去っていった。
「愛ってなんだろうね。」
最初から聞かれてたか。
すぐに返事を聞かせに行ってやった。
ワタシはこの人と生きていく。
出発当日。
みんなに見送られ、やっと実感が沸いた。
滲んだ視界の中、百合子さんを見つけると、百合子さんの方から抱きついてきてくれた。
ワタシは百合子さんにだけ聞こえる音量に笑顔を添えて。
「百合子さんが好きでした、今はサトルを愛しています。」
百合子さんも泣いてる?うんうんと頷きながら、アドバイスをくれる。
「コハクはいつだって真剣に他人を想うやさしい子ですよ。愛して、愛されて、たまにはケンカしなさい。」
次に会う時には、もっと幸せな姿を見せてやる。