サトルの瞳孔《本編17話》
不思議な時間だった。
正座してた時は、殺されるかと思った。
立てなくする術もあったはずなのに、あれでまだ手加減されてた感じだった。
時々、「わしはまだ許しとらんぞぅ。」と稽古をつけてくれる、もうあの時の怒気はない。
医務室での勤務、ジゴロウの特訓。
コハクとは、すれ違いざまに話をする、元気が出る。
たまに光一郎を抱っこし、癒される。
忙しいが充実している、ただ、時々、このままでいいのかと焦燥感がある。
夕方、仕事終わりにトワコに呼ばれた。
まずは、五人。南のコミュニティに医師として応援にきて欲しいと。
行きたい、と思った。
本来なら即答していたはずなのに。
でも、一番に思い浮かんだのは君だった。
不思議な感覚だった。
いつの間にか、守りたいものが出来ていた。
トワコに言われたその足で、本棟宿舎のコハクの部屋をノックした。
キョトンとしていたが、ハーフパンツ姿はレアだ。
部屋の入口で、トワコに聞いた話をした。
「コハクが百合子の事を好きなのは知ってる。それでも、俺に付いてきてくれないか?」
「返事は今じゃなくてもいい。」
「春の終わりには出発する、それまでには頼む。」
ずいぶん一方的だね、と言われた。
言いたい事しか言わないのは俺の悪い癖。
翌朝、総一郎たちに話した、思わず熱が入ってしまった。
以降、トワコや先輩方が厳しいが、それが憎しみではなく反対の気持ちなのが伝わってくる。
ジゴロウからは、紺の胴着と刀をもらった、俺の丈に合った胴着と業物らしい刀だ。
出発前日の夕暮れ、部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、少し息を切らせたコハクが立っていた。
返事を言いに来た、と言って、
いきなり両手で胸ぐらを掴んで引き下ろしてきた、巴投げかな?
瞳いっぱいにコハクが映る。
不思議な感触だった。
俺はこの人と生きていく。