コハクの恋《本編13話》
なんでボクはここにいるんだ?
白い天井、壁、ベッド。
あれ、胸が痛い、そっとシーツを捲って覗き見る。
谷間は無いがヤケドの痕がある、鳩尾のやや上、親指よりは、ちょっとおおきいかな?
なんだったっけ?
ガチャ。
誰か入ってきた、咄嗟に寝た振りをしてしまった、もう後には引き返せない。
「えっと、まだ寝てるのかな?」
この声は、総一郎?
「まずはごめん、コハクさんの事をずっと男だと思ってた。」
ほんとだよ、なんで男と間違えるんだよ、デリカシーのないやつめ!
「そしてごめん、胸の傷は僕が付けた、暴走した君を止めるには、これしか思い付かなかった。」
おまえかよー、乙女の柔肌だぞ!
暴走?そいえば、誰かと会ってからの記憶が・・・。
「それともうひとつごめん。」
何回謝るんだよコイツは!
「僕は百合子さんを愛している。」
・・・・・・・・・・。
「百合子さんとは、街で出会ったんだ。」
「百合子さんは、怪我をして、ちょっとイライラしてたんだって、松葉杖つきながら、気晴らしに買い物に出て。」
「ちょこまかと楽しそうにお店入っては買い物袋が増えていくご機嫌な人が視界に入ったらしい。」
「その人を見失ったと思ったら、ちょうど曲がり角でばったり会ったんだ。」
「僕は覚えてるよ、百合子さんのキリッとした顔が、目を見開いてびっくりした顔になって、あわてて、その後、そっとはにかむんだよ。」
「恋に落ちないわけないよね。」
「君も百合子さんを好きになったのなら、僕たちはライバルだ。」
「百合子さんは、いつだって君を心配してたよ、君が視界に入る度に目で追ってたし。」
「君の情熱になびかないとは、言い切れないからね。」
「でも、コハクさんには、いや、コハクには負けない。」
「僕は百合子さんを愛しています。」
「まぁ、宣戦布告はコハクが元気になってからだね。」
総一郎が部屋から出ていった。
昨日、百合子さんから言われたっけ?
「私は総一郎さんを愛しています。」
完敗だー。
ボクは・・・ワタシは失恋した。