サトルの眼差し 後編
総一郎にばれた?そんなバカな。
「どうしてそう思うんです?」
作り笑顔で聞いてみた。
「違ってたらゴメン、この写真の君の目と、今の君の目の色が違う。」
「成長とともに目の色が変わることはあっても、赤が混じる事はないんじゃないかな?」
「だとすると、あの日、君は目に関する異能力を手にいれたのかなと、マシロさんと挨拶した時だけ若干口角が上がった、条件とかもあるの?」
概ね正解だ。
「それに、僕も百合子さんも偶然だったけどコハクさんの名前を言ってなかった、サトル君は、いつ知ったのかなと思って?」
まいったね。
はぁ、ここには居られないな。
「写真は確かに俺だよ、一緒に写っているのは母だし、撮ったのは父で合ってるよ。」
「二人とも、俺が殺した。」
さすがにびっくりしてるな、俺は続けた。
母に毒を塗られ、失明していた事、あの日、目が見えるようになって能力に目覚めた事。
ネコの獣人が襲ってきて、俺を守るように、母に術を掛け、母が襲われている間に木刀で撲殺したら、それは、父だった。
写真は父の懐にあったやつを貰っただけだ。
改めて言う。
「俺が二人を殺した。」
「違う。」
否定され、いらっとした、なにも知らないくせに。
「俺が父さんを撲殺した!」
「違う、あの日、あの瞬間からもう君の父は自我を失くしてたんだ、すでに亡くなっていた。やらなきゃ、やられる、常に君と母の写真を持っていた人がそんな事を望むわけがない。」
なんなんだよ。
「俺は、母に術を掛け、死なせた!」
「違う!君の母は、君を守りたかっただけだ!本当に君の母は術に掛かっていたのか?身を挺して我が子を守るのに術なんか関係無い!」
はっきりと思い出す。
まだ徴兵で心が壊れる前の母の姿。
野犬に襲われそうになった時、震える手で箒を振り回し守ってくれた。
心の仮面が割れる。
もう流れないと思っていたものが頬を伝う。
「俺は、人を、守りたい、医者だった両親の遺志を継ぎたい。」
見上げたまま、手を差し伸べてきた。
「うん、改めて、よろしく。」
総一郎と握手した、ちょうどシュウヘイが帰ってきた、タイミング良いな。
総一郎は医務室に行った、シュウヘイに案内して貰ったのは、別棟宿舎の三階の一室、窓もあるし、家具一式揃ってる、ベッド派ではないが仕方ない。住んでいるのは、どちらかというと難民の人が多い。
ノックされた、忘れ物でもしたか?
鍵を開ける、油断だった。
勢いよく開けられた扉から目出し帽と黒い軍服の細身の男が一人、ご丁寧にドアの鍵を掛けた、邪魔されない為と逃がさない為。
黒い箱を無造作に床に落とし、右手はナイフを取り出し、初手で俺の首を狙ってきた。咄嗟に左腕で守る、肉が切れ、骨で止まる感触。
さらに、ナイフで切りつけてくる。
無理に避けようとして、体勢を崩す。
左目を頬から額まで切られた、木刀を抜こうとするが、右腕を蹴られ、対面のまま壁に押し付けられる。
睨まれるが、だめだ、術が効かない。
右腕が動かない。
「ちっ、傷付けちまったか、まあいい、まだもう一個ある。」
「マシロんとき、おまえは何かをした、それで跡を付けてたら、半獣人にも何かした。」
「おまえ、目に何かあるんだろ?言え!」
「誰が、おまえ、なんかに・・」
床に叩きつけられ、片手で喉を絞める、右目に何かされてる、溶けるように熱い、意識が・・・
『俺は、人を、守りたい、医者だった両親の遺志を継ぎたい。』
そうだ、死んでられない、守るって決めたんだ!
首を絞める力が緩んだ。
心の底から声を出す。
「うわあああああー!!」
見えないけどなんとなく分かる。
なけなしの力を振り絞り、シーツを敵が居そうな所に投げ、ガラスを割り、窓から飛び降りた。頼む、誰か居てくれ。
気が付くと、ベッドで寝ていた、薬品の匂いがする。
カーテンの向こうで、声がした。
「すまんなトワコ、立て続けに。」
「今日は厄日か?コハクに百合子、終わったと思ったら、こんな夜更けにあんたと細長いのかよ?」
シュウヘイと荒っぽい女性。
「で、容態の方はどうなんだ?」
「右目は駄目だ。くり抜かれてる、左は瞼の出血は多いが、角膜の傷は浅い、自己治癒力に頼るしかないよ、あとは、右腕の骨折と左腕の切創がひどいね、てか、あんたも弾は取ったけど、腕撃たれてんだから気ぃ付けなよ、お互い、いい年なんだしさ。だいたいあんたは、あん時も」
まだ見える可能性はあるのか?
安堵とともに、また意識を失った。