サトルの眼差し 前編《本編10~12話》
長くなったので、前後編にしました。
効かない、効かない、効かない、効く、効かない。
不作だな、このトラックの人達は意思の強い人が多いな。
マシロって人以外に異能力が効かない、面白くないな。
「へぇ、駐屯地と畑や裏の森辺りまで拠点なんですねぇ。」
気さくに気さくに。荷台の狭さに文句は言わないさ。
「今んとこ物々交換が主流だからね、森と畑を維持してると、生きる事には困らないさ。」
ようやく着いた、思ったより広いな。
マシロに案内するように言わせて、効きそうな人でも探そうかな。
「自分が施設を案内します。」
よし、シュウヘイの了解も得たし、適当な所ではぐれた事にしてと、誰か居ないかな?
前も見ずに走ってくる半獣人にわざとぶつかる。
「いてて、あれ、見ない顔だね。」
トラ族の半獣人の女の子か、ひょっとしたらケモノ化が見れるかも。
なぜかちょっと躊躇してから目を見る。
ふぅ、立て続けはちょっと疲れるな。
虚ろな目になったコハクの跡を遅れて追う。
震動、悲鳴、逃げる人々。
食堂に入ると、2mくらいの虎人間が暴れてる。
おぉすげぇ!ケモノ化は久しぶりに見た。
標的が総一郎だから、あの人が死ぬまでは大丈夫だろう。
女性が倒れてる、この人が百合子かな、あ、起き上がった。
「すみません、この子と安全な所へ行ってもらえませんか?ぐずってますけど、お願いします。」
『どっちも助けたい』意思の強さが目に宿ってる。
半ば強引に赤ん坊を抱っこさせられ、虎の所に行ってしまった。
えっ?なんで?俺が?泣き止まないじゃん。どうすんのコレ?
赤ん坊の目の前で手をグーパーしてみる、泣き止まない。
揺さぶる、泣き止まない。
仕方ない、ボサボサの前髪をかきあげ、必殺変顔、あ、泣き止んだ。
さらに、違う変顔、おぉ、笑った。
赤ん坊のほっぺたを触る、赤ん坊は俺の人差し指を両手で握ってきた。
ふふっ、何やってんだ、俺。
「みんな伏せて!」
我に返る、守らなきゃ。
心の仮面にヒビが入る。
咄嗟に赤ん坊を守る自分がいる。
そんな俺ごと身を挺して守る百合子の姿に、幼き日の母の姿が連想される。
まだ、徴兵で心が壊れる前の母に。
爆風が止んで、赤ん坊を見る。
あ、泣く、させるか、変顔・改。
よし、いい子だ、頭を撫でてやる。
総一郎の声がする。
「えーっと、心臓は動いてる、生きてるよ。でも心はどうだろうか?」
さっきまで殺されそうになっていたのに、この男はもうコハクを心配してる。
ケモノ化から戻ったのなら大丈夫だろうと、伝えておく。
周りがざわざわしだして、シュウヘイとショートカットの女の人が入ってくる。
シュウヘイと総一郎が話し合ってる間に、百合子に赤ん坊を返しながら、疑問をぶつける。
「なんで俺なんかに自分の子供預けたんだ?他に居なかったからか?」
俺の目を見て答えてくれた。
「あなたの眼が、悪い人に見えなかったから、それにこの子・・・」
母の顔になり、自分の子を見つめ。
「一度泣き出すとなかなか泣き止まないのよ、総一郎さんも苦労してるのに・・・」
「だー。」
再び、俺を見る。
「あなたは良い人ね。」
心の仮面に亀裂が入る。
そう言って、自身も負った傷の為、医務室に行ってしまった。
総一郎が、足元に落ちてた物を拾ってこっちに来た。
「落ちてたよ、これ、サトル君のだよね。」
あ・・写真、爆風で飛んでたか。
「君とお母さんかな、て事は、撮ったのはお父さん?素敵な家族だね。」
当たりだよ、当たりだったよ。
「僕らもこういう家族にしたいんだ、君のおかげでみんな無事だった、諦めずに済みそうだよ。」
あんたたちなら出来るだろうな。
「だから、人の為になる事に君の能力を使って欲しいと思う。」
?
ばれてる?能力があるって事。