サトルの目的《本編8.5話》
両親ともに医者だった。私も多少手伝っていたが、お国の為に、徴兵される事となった。
徴兵されれば兵士として戦場で死ぬかも知れない、と母親の愛は偉大なのだろう。息子の目に毒を盛り、失明させる事で徴兵を免れた。
15歳から5年間、ずっと闇のまま、木造二階建ての二階の小さな一室が私の世界だった。常に母親からの愛情を受け育った。
そして、世界が一変した。
二階の一室からでも悲鳴が聞こえる、人が倒れた音、なにかのうめき声。
見えない分、他の感覚は鋭くなった。
異変は自分の身にも起きた。
目に光が灯った、見える、5年ぶりに自分の姿を見る、背は伸びたが少し痩せたかな、筋力は衰えた。
そして、不思議な感覚を得た、いまいち使い方がよくわからない。
パタパタと足音がこちらに向かってくる、母さんだ。
母さんが部屋に駆けつけて、顔を見るなり抱きついてきた。
「サトルちゃん、大丈夫?患者も医者も化け物になるし、もう心配で心配で、サトルちゃんに何かあったらと思うと。」
「大丈夫ですよ、母さん、それにほら、目が治ったんだよ。」
母さんはビックリして、こちらの目を見て言う。
「ダメじゃない、治っちゃったら戦争に行かなきゃいけないでしょ、そんな事はさせませんよ、さぁ、もう一回お薬を塗りましょう?ね?」
暗い想いが心を蝕む。
何を言っているのだ、この人は?
死ぬつもりなんかない、男児として生を受けた以上、守りたかった、国を、人を、愛する家族を。
また、私をこの部屋に閉じ込めるのか。
「ふざけるな!せっかく見えるようになったんだ、私はあなたの操り人形じゃない!」
「そ、そんな、お母さんはサトルちゃんの為を思って。」
使い方がわかったような気がした。
目を見て、心で命令をする。この人の目がうつろに変わる。
子を守りたいなら、守らせてやるよ。
父さんを探そう、きっと分かってくれる。
出かける準備をし、木刀を持って部屋を出る。
一階に降りてすぐに、何かが近づいてくる音がする。
猫の顔をした人間が襲ってくる、なんだこの化け物は?そういえば、この人が言っていたな。
母さんだった人に命令する。
私を、いや、俺を守れ。
「サトルちゃん・・・」
引っ掻かれ、噛み付かれている間に、その猫の頭を木刀で叩き割る。
二人の亡骸を見る。
なにか、使えるモノは無いかと猫人間の服を漁る、一枚の写真があった。
母さんと俺が写っていた。
「ふふっ」笑いを堪えきれない。
「はっはっはっは」何かが頬を伝うが、これが最後だろう。
外に出たとき、確信した。
世界は変わった、いや、世界は狂った。
もう、守るものはない。
守りたいものもない。
この能力で狂った世界を楽しもう。
取り繕った愛想笑いの仮面を被り、心を閉じた。
それから一年、半獣人や人間のコミュニティを転々としながら色々分かった。
小さなコミュニティの仲を悪くし、崩壊させた事もある。
生きる事にはあまり困らなかった、異能力を使えば、ある程度、意のままに操れる。
使い過ぎるとさすがに疲れるし効果が薄くなる。
二人目に使うと、一人目の効果が消えるが、洗脳されている事には気付いていない。
意思の強いものには、効かなかった、ただ、意思を弱らした後なら効いた。
面白い能力だ、まだまだ実験のしがいがある。
ボサボサに伸びた髪が鬱陶しくなってきた。
一台のトラックがやってきた、次はこのコミュニティにしよう。
誰か効きそうな人いるかな?
世界が一変した日は20歳、そこから一年程転々としたので、21歳くらい。