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ミーティアライトのいたずらよ外伝  作者: ヒジカタアルジ
20/21

ギンジとエミリー

「やっぱりエミリーか?」


「兄貴?」


エミリーは蹴り飛ばした椅子を目眩(めくら)ましにそのまま駆け抜けようとしたが、体ごと抱き留められる、至近距離で見つめ合うもあわてて離れ、心拍数を戻しつつ思いを伝えようとする。


「あ、あのさ、言いたい事があるんだけど。」


「こっちもあるが、まずはここを脱出してからだ、外でマシロに(おとり)になってもらってる。」


それもそうだわ、こんな所にいつまでも居たくないし、それにしても手錠が邪魔すぎる。


「これ、どうにかなんないかな、動きづらくって。」


「ん?まぁ、なんとかなるだろう?」


ひとしきり手錠の構造を確認して、拳銃で錠の部分を撃った、エミリーの小さな悲鳴は銃声にかき消され、拘束は外れた。


「あっぶないなぁ、怪我したらどうすんのよ!」


「外れたんだからいいだろう、行くぞ。」


ギンジはトランシーバーでマシロに、洋館の東側から脱出する旨を伝えると、エントランス側の扉から拳銃を持った護衛が一人、銃声に釣られてやってきた。


先に動いたエミリーに照準が向く、一直線に護衛に突っ込むエミリーに発砲するが、見て避ける半獣人の銀狼に手も足も出ない。


(ふところ)に潜り込んだエミリーは護衛の(あご)めがけて(こぶし)を思い切り突き上げる。


エミリーからすると、朝から災難続きだった、狂人から猟奇的な話を聞き、凄惨な手術室を見て、過去のトラウマには打ち勝ったものの、黒豹の獣人に殴られ、七三眼鏡(しちさんめがね)に踏みつけられ、やっと一矢報いた気がする。


「ふぅ、すっきりしたっ!」


まだ物足りないが鬱憤(うっぷん)は晴らした。


「なんだ、銃声が聞こえたぞ!」


「食堂だ!急げ!」


合計二発の銃声が騒ぎを大きくする。


エントランスからもギンジが割って入った窓からも侵入してくる、多勢に無勢からギンジの陰に隠れ、おろおろしだすエミリー。


「やっばい、兄貴、どうしよ?」


「窓の方に走れ!マシロが迎えにきてるはずだ!」


ギンジは流れるような動きで東側の窓ガラスを拳銃で撃ち割り、エミリーを先に誘導し、侵入する護衛どもを狙い撃つ。


エミリーのように避ける奴、異能力で相殺する奴が居る、いままでとは一味違う幹部候補生が出てきた。


目的は達成している、いちいち相手にしていられない、足止めに弾を撃ち尽くし、エミリーの跡を追う。


なぜか、幹部候補生達は深追いしてこない、詰め将棋みたいに脱出経路が制限されていくような気がする。


ギンジが外へ出ると同時に、マシロの軽トラックが後輪を滑らし豪快に出迎えてくれた。


二人の姿を見て、ずっと緊迫した状況だったマシロに、ようやく笑みがこぼれる。


「やぁ、おかえり、エミリー。」


「ただいま、もう踏んだり蹴ったりだよぅ、早く帰ろ!」


「よく持ち堪えてくれたな、急ごう。」


一夜にしてボロボロになった軽トラックの荷台にギンジとエミリーは飛び乗る。


「オッケー、ぶっ飛ばすから、二人ともしっかり掴まっててよ!」


アクセル全開で門扉まで向かう、洋館から出てくる幹部候補生達は、大雑把に陣形を整えるだけでゆっくり詰め寄ってくる。


荷台で弾を込めていたギンジがいち早く門近くの存在に気付く。


「居やがったか。」


挟み撃ち、洋館側の護衛集団と守衛室を陣取る三人。


守衛室の屋上で茶色いスーツを着崩し、仁王立ちをする黒豹の獣人とその両隣にスーツ姿の男女が一人ずつ。


ひとりはエミリーを(さら)った時に居た氷使いの男。小柄でぶかぶかの青いスーツを着ている、能面のように無表情な顔でこちらを観察している。


もうひとりは、すらりと長い手足でパンツスタイルの赤いスーツ姿、同じく真っ赤な口紅とやや濃い化粧の女、長い前髪を掻き上げ、挑発的な笑みを浮かべ、中指を立てる。


それが異能力の発動条件なのだろう、ギンジが拳銃を向けるより速く、前方の地面が()り上がり、円柱形の土の塊が生成される、マシロは方向転換を余儀なくされ、荷台は激しく揺れる。


軽トラックはバランスを崩し横転しかけるも、マシロのハンドル捌きでなんとか持ち直す。


今度は無表情の男が両手を前に出して異能力を発動、数本の氷柱(つらら)が運転席を直撃する。


「「マシロッ!」」


荷台にしがみつくしか出来ないまま、二人はマシロを案ずるが、軽トラックはブレーキも効かせず守衛室とは反対側の門柱に衝突する。


衝撃で吹き飛ばされる、二人はかろうじて受け身を取り、マシロの方へ駆け付けようとするが、氷と土の異能力が二人の距離を遠ざける、無表情の男と厚化粧の女が間に立ち、邪魔をする。


膠着状態(こうちゃくじょうたい)


炎上こそしなかったものの時間の問題、マシロはまだ出てこない。洋館からの護衛集団も近寄ってこない。


口火を切ったのは仁王立ちから、ゆっくり胡座(あぐら)をかく黒豹の獣人の発言。


「おじょうちゃんとこに鍵を置いたのは俺だよ、楽しかったろ?無事に助けられて仲良く帰ろうってよぉ。無理だよなぁ、コイツらには死んでもらう、絶望すりゃ、諦めも付くだろ?」


「ノウマ、カオリ。古株が死んで久しいところだ、旦那にゃあとで話付けといてやる。昇進試験と行こうか、コイツを殺したやつが幹部だ!」


能面の男が初めて欲に顔を歪ませるが、赤い女の自己主張が強い。


「ノウマ、手を出すんじゃないよ、アタシが先だ!」


異能力という名の物体が地面の中を魚雷のように走り、土の槍が斜めに飛び出しギンジを貫こうとする、それを()()りかわし拳銃を構える。だが、撃てない、立て続けに迫り来る土の槍に対し、転がりながら避けるしかない。


『コイツを殺したやつが幹部だ!』ということは、幹部になれるのは一人だけ、共闘して来ないだけマシか。


「兄貴!」


「小娘はウロチョロすんな!」


カオリは挑発的に中指を立てると、垂直に飛び出す数本の円柱形の土がエミリーの行く手を阻む。


一瞬の隙にギンジは発砲するが、空中で土の塊を生成し、銃弾を弾く。


「甘いよ、色男。こういうのはどうだい?」


物体は地面を魚雷のように進むが、途中で止まった。なんの変化もなかったが、エミリーにはギンジの後ろの地面が動くのが見えた。


「兄貴、後ろ!」


背後から突き出る土の槍がギンジの左脇腹を(えぐ)る、黒いジャケットが血で滲む、避けてなければ背中から貫かれ、死んでいた。


「くそっ、小娘が、余計な事を!」


確実に殺せる手だったはずなのに、邪魔された事にイライラし、今度は土の槍でエミリーを(おど)す。


「カオリィ、商品なんだから殺すなよぉ。」


黒豹の獣人が茶々をいれるが、未だ動けずに居る標的を見て、カオリは気にせず勝ち名乗りを挙げる。


「これで、私が幹部だ!」


前髪を掻き上げ、中指を立てた時、氷の刃が胸から生えていた。


赤い(くちびる)から赤い血を流し、赤いスーツを赤く染める。


油断した、敵は目の前だけではなかった。振り向かなくても分かる、きっと欲に歪んだ顔をして(わら)ってる・・・くそがっ・・・


エミリーは、立ち上がれないギンジの所に駆け寄ると同時に赤いスーツの女が膝から崩れ落ちる、残った者は小柄な男。


赤く染まった青白い氷の刃を右手に持ち、不気味な笑みを浮かべる青いスーツの男。


「お膳立てご苦労様です、クソババァ。」

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