プロローグ
もらった給料の一部で本を買う。その選択をする人は多い。とある本屋をうろつく彼女もその一人。
入店して最初に新刊コーナー。次に雑誌コーナーへ。小説や漫画、図鑑コーナーと端から端まで店内を見て周り何を買おうか思案する。その時ふと目に止まったのは最近流行りの転生小説だ。
異世界に召喚されたりあちらの世界の生き物として生まれ変わったりした主人公は前世の知識を活かして異世界に改革をもたらしたり、チート並のスキルで活躍したりする。何冊か読んだことがあるがだいたいがこのような流れとなっている。お約束展開というものだ。
異世界に行く。それだけなら昔からある展開だ。ドロシーもアリスも自分の持つ常識では考えられないようなことが起きる世界にたどり着く。しかし彼女達は自分のいた世界へと帰っていった。
最近は前世の世界に帰る選択をする主人公はあまりいない。転生したから帰るという選択すらない。やはりリアルは辛いから逃げ出したいという願望を持つ人が多いのだろう。だからこそ読者にウケが良く、本の数も多い。そのためまたこの手の本か、と彼女は少しだけ呆れた。
しかし彼女はふと気づく。自分は決してこれらをバカにしてはいけない。ズボラで飽き性な彼女には一冊の本を完成させるということはできそうにないからだ。たとえよくある展開の内容だとしても完成させるだけでとてつもなく偉い。薄い二次創作なら作ったことがあるが結局シリーズものにした話は完結していない。
このままでいいのだろうか。少しの焦りを感じた彼女は少し歩いた先にある文具コーナーへと足を運ぶ。様々なノートが置かれているが彼女が手に取ったのは低学年の時に使った覚えのある百文字書けるノート。
ズボラで飽き性だから一気に何かを成すのは難しい。だから少しの文字数だけの日記をつけたらどうだろうか。チリも積もれば山となる。少しはマシになるかもしれない。
そのノートと数冊の漫画。そして猫の日が近いということで売られていた猫の写真集を手に取りレジへと向かうのだった。