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1章 8話 状況確認

「…………えっと」


「んっ、なんだ?」


 アリアにご飯をごちそうになった後、紙にメモを取っている。


「何してるの?」


 それを不思議に思ったのか、アリアが首をかしげている。


「何って……状況確認」


 物事を整理するときに、紙に書きだすのは普通だろ?


「えっと……ボクには絵をかいてるようにしか見えないんだけど」


「これはこれでいいの」


 日本語を説明しようにも、オレにはこの世界の言語も日本語にしか見えない。それに、アリアからすれば絵をかいてるようにしか見えないのであれば、口頭で説明しても伝わるかどうかわからない。

 そもそも、日本語なんてものは世界でも難しい言語の部類に入るらしいし。説明するのもめんどくさい。


「まぁ、いいや。一応、紙だって貴重なんだからね。無駄使いしないでよ」


「そうなのか。ちなみにこれ1枚でいくらくらいだ?」


 今、メモにしていた紙をひらひらと振って見せる。大きさ的にはA4くらいか。


「えっと、その大きさの紙10枚で100ルイスちょっとだから、大体1枚10ルイスくらいかな」


 ここの通貨の単位はルイスか。

 1ルイスが日本円でいくらくらいかはわからないから、これが高いのかどうかわからん。

 物価も気になるから、いづれは街に行ってちゃんと調べないとな……


「それにしても、そんな絵をよくすらすらと描けるねぇ。もしかして、絵師でもしてたの?」


「もしそうだったら、それで食ってくよ」


 オタクならだれでも思たことはあるはずだ。あんな可愛い女の子をかいてみたいとか、カッコイイバトル漫画を描いてみたいとか。オレには無理だったけど。


「そういえば、お金もどうにかしないといけないよな〜。ずっと世話になるわけにもいかないし」


 メモ紙にでかでかと“お金”と書いて、まるで囲む。日本でも、何をするにしても先立つものが必要だ。そうじゃなくても、いつまでもただ飯にあやかるのはまずいだろう。

 昔、将来働かずに食っていけたらどれだけ幸せか、とか考えたことがあったが、実際にそうなりそうになると、罪悪感と将来の不安で押しつぶされそうになる。早急になんとかしねぇと……


「何か宛はあるのかい?」


「あったら苦労しないって。こういう異世界物だとお約束のように冒険者ギルドに入って、偶然出くわした高ランクのモンスターの討伐で資金問題を一瞬で解決したりするんだけど……」


「討伐、かぁ……キミ戦えるの?」


「無理に決まってんだろ」


 このオレが戦えるように見えるってか?

 生まれてこの方、帰宅部じゃ。生粋のオタクだよ。体育の成績も中の上くらいで、目立ちもしない立ち位置だよ。


「うん、そんな気がしてた」


 あっさり切り捨てんなよ……


 そこは嘘でも“そんなことないよ、やればできるよ”的なこと言ってほしかったんですけど……まぁ、いいや。


「こういうお約束の連中はいつの間にか持ってたチートスキルで無双するのがお約束だけど、オレには望み薄だしなぁ……」


 なにせ、自称神様に喧嘩売ったようなもんだ。それなのにチートスキルを持ち合わせてるなんて、期待しない方がいいだろう。


「アリアはどうなの?」


「さぁ……戦える部類だとは思うけど、最近は何もしてないからなぁ。魔導士ギルドの方も、冒険者ギルドの方も、資格更新の手続きしてないから資格切れてるだろうし」


 あれか。運転しないからって運転免許証放置したみたいな。


「ギルドって、それ以外に何があるんだ?」


「色々あるけど……有名なところでは、冒険者ギルド、傭兵ギルド、魔導士ギルド、商人ギルド、生活ギルド……あとは、盗賊ギルド、闇ギルドなんてものもあるしね」


「まぁ、字面で何んとなく察しはつくけど、生活ギルドって言うのは?」


 それ以外のものは小説や漫画でよく見るけど、生活ギルドなんてものは聞いたことがない。井戸端会議でもしてんのか?


「端的にいえば、みんなの意見を領主に伝えたり、税金の徴収をするためのギルド、かな。そこに住んでいることさえ確認出来たら、所属できるよ」


 思ってたのより便利そうなギルドだな。

 税の徴収すら任せられるって言うことは、国の機関か何かなのだろうな。でも、街に住んでないオレには入れない、と……


「ギルドなんて言うものは、基本的には仕事の仲介役みたいなところだしね。何かしらが出来ないと所属できないものだよ」


「まぁ、そうだよなぁ……」


 ギルドだってタダ働きをしているわけじゃない。ギルド職人だって養わないといけないし、人件費以外にも色々出費があるはずだ。仕事の出来ない人間を雇い入れるわけない。


「はぁ……どうしたものかな〜」


「それだったら、一度まとまった考えを口に出してみれば? 意外とすっきりするかもしれないよ」


「そうか?」


「まぁ、騙されたと思って。もしかしたら、何かしら助言できるかもしれないし」


「そういうことなら……」


 アリアの言葉に騙されたと思うことにして、メモ帳を手に取る。


「まず、現状だが……これがまずよくわからん。わかってることが、自称神様とやらを名乗る爺さんに盾突いたら、ここにいたこと。元に戻る方法とかは不明」


「そんなことしてたの、キミ……」


「だから、あの時は夢だって思ってたんだよ」


 こうなるなんて思ってたら、盾突いたりしないって。おかげで、今絶賛崖っぷちだし。

 まぁ、そんなこと言っても後の祭りなんだけど。


「夢だからって、神を名乗るお爺さんに普通盾突く?」


「あの、胡散臭い爺さんの言うことなんて信じられなかったんだよ。こんなことになるなんて思ってもなかったしな」


「まぁ、いいや。それで?」


「取り急ぎ必要なことが、ここで生き抜くための物資の確保。物資を確保するためにお金が必要なんだが……」


「キミにはお金を確保する手段がない、と」


「困ったことにな」


 異世界知識で荒稼ぎ……ってことも考えたけど、そもそも街に入れないんだったら、荒稼ぎどころじゃないし、この世界の文化レベルも大体でしかわからないのに異世界知識が通じるかもわからない。

 せっかく異世界知識があっても“魔法の方が便利じゃん”ってなったらそれまでだ。


「まぁ、ないものねだりしても仕方ないから、それは後で考えるとして、次。物資が確保できた後はキミはどうするんだい?」


「さて、どうするか……」


「決まってないの?」


「帰る手段を探すって言うてもあるんだけど、ぶっちゃけ、あの爺さんの言うことは信じられないしなぁ……」


「そのお爺さんは、なんて言ってたの?」


「世界が崩壊するかもしれんから、その前に魔王を倒してくれ、だってさ」


「……………………」


 アリアが驚いた顔をする。口をぽかんと開け、目を見開く。


 そんな驚かせること……いや、うん。言ってるな。

 魔王はともかく、世界が崩壊云々って言われて驚かないやつがいるわけない。


「ね、ねぇ。それ、ホント?」


「知らねぇ。でも、自称神が言ってたのは確かだぞ。とはいえ、実際これぐらいしか証拠がないから、この路線で調べるのもありか」


 もし実際にいても、オレが倒すかどうかは別として。


「アリアは何かしらないか、魔王のこと」


「知ってかって言われたら、知ってる。けど……」


「なんだよ、歯切れ悪いな」


 アリアが非常に言いづらそうにしている。そんな溜められると、めっちゃ気になるんだけど。


「その、驚かないで聞いてくれよ」


「あぁ」


「その……魔王は、その……10年前に、討伐が確認されてるんだけど……」


 言いづらそうにアリアは左頬をポリポリと掻きながらつぶやいた。


「……はぁ!?」


「だから、今この世界に魔王がいないって言うか、なんというか……」


「……なぁ、今、今後の目的思いついたんだけど、言っていい?」


「あっ、う、うん。どうぞ」


「あの自称神様ぶん殴ってやる!! ふざけんなよ!! 魔王倒せみたいなこと言っておきながら、魔王がいないとか、ふざけてんだろ、どっからどう考えても!!」


「うん、ボクもそう思う」


「ラスボスいませんでした、なんて炎上案件じゃ、責任者出てこいや!! 聞いてんのか、クソジジィ!! 神を名乗るなら、世界のこと見通しとけや、この無能神がっ!!」


 もし、あの爺さんの言うことを信じるとしても、すでに目的失くしてるんだけど?

 あの爺さん、マジで何したかったの? 嫌がらせ?

 もしかして、アレか? お前が魔王になれ的な。なんで好き好んで損な役回りしねぇといけねぇんじゃ、ふざけんな!!


 この後も、声にならないような声で叫んでたと思う。後半、オレも自分で何言ってたのか覚えてない。


「ほとんど何言ってるのか、よくわからないけど……とにかく、キミがとてつもなく怒ってるのだけはわかったよ」


 アリアに止められるまで、延々と叫んでた気すらする。

 少し落ち着いた。


「はぁ……はぁ……なぁ、アリア。神様の世界に行く方法なんかないか!?」


「う〜ん……死んでみるとか?」


「よし、じゃぁ一回死んでくる」


「ちょっ!?」


「冗談だ」


「冗談に聞こえないんだけど!?」


「冗談だって。信じろよ。それとも何か? 何度でも助けるって言うの嘘だったのか?」


「もしかして、ボクを試したのかい?」


 アリアが不満そうに頬を膨らます。


「さぁな。確かにあの自称神様をぶん殴ってやりたいが、そのために死んだら本末転倒だろ」


「そうかい、そうかい」


「なんだよ……」


 なんか、嬉しそうだな……


「何、キミもボクのこと、信じてくれてるんだなって思ってさ」


「ッツ…………お前が信じろって言ったんだろうが」


「うんうん、そうだね」


「おい、何ニヤニヤしてんだっ」


「なんでもなーい」


「なんでもないわけないだろ!」


「いいじゃないか。それよりも次、次。これからどうする?」


「ったく……」


「そのお爺さんをぶん殴るのは、面白そうだけど、手段がない。それは後回しだ」


「さっきから、後回しにし過ぎじゃないか?」


「お金の話に関しては、当てがないわけじゃないから、本当に後で話すつもりはしてるよ。お爺さんの件は、何もわからない状況で考えても何も出てこないよ。0に何をかけても0。今、そのことを考えても無駄。だから、後回し……というか、放置の方向で」


「おい」


 とは言え、実際問題、どうしようもないのも事実なんだよなぁ……


「それじゃあ、キミに確認しとかなきゃいけない大事なこと」


「キミは……元の世界に帰りたいのか、そうじゃないのか」


「そんなこと……急にはわからねぇよ」


 帰る手段が明確にあるなら、前例があるなら、話は変わったかもしれない。しかし、それがない今、帰りたいと思ってもどうすることも出来ないのも事実だ。

 帰る方法を探したところで、見つからないかもしれない。見つからないかもしれないものを探すほどの動機があるか、と言われたら……


「そっか。なら、ひとまず、ここでの生活基盤を整えることにしよう」


「い、いいのか?」


 大事なことじゃなかったのか?

 そんな大事な質問に、オレは答えられなかった。てっきり、ここで結論を出さニといけないかと思ってたんだが……


「いいよ。簡単に答えが出る問題でもないし。キミが悩むというなら、それはそれで悩む時間を作るためにも、ここで生活しないといけないんだし」


「言っただろ。ボクはキミを助ける、何があってもだ」


「そっか……そうだな」


「ということで、お金の話だ。単刀直入に言うと、キミはやっぱり冒険者ギルドに所属して、仕事をしてお金を稼ぐべきだ」


「理由を聞いても?」


「大きく2つ。ひとつは、大した実力がなくても所属できること。もうひとつは、仕事をしているだけで、資格更新の手続きをしなくていいこと」


「大した実力がなくてもって……」


 否定するつもりはないが、言葉にされると、それはそれで悲しいものがあるな……


「冒険者ギルドっていうのは、要するに何でも屋だからね。実力がなければ薬草採取とかも仕事として受け付けてるから、それをこなせばいい」


「成程、定番どころだな」


 ついでに言うと、その薬草採取の最中に、高ランクのモンスターが出てきて……っていうのも定番のような気がするのはオレだけか?


「資格更新の手続きなんだけど、冒険者ギルドは各依頼の報酬金の2割を中抜きしていて、それを一定金額溜めれば資格更新の手続きとしているんだよ。他はそうはいかないからね」


「例えば?」


「魔導士ギルドなんかは、何かしらの研究結果の報告。傭兵ギルドは、国からの防衛任務……とかかな。他はよく知らないや」


「理由はわかったけど……そのギルドに登録する方法がないんじゃなぁ……」


 冒険者ギルドなんてものは、街の中にある。

 その街の中に入る方法がないんじゃなぁ……


「それに関しては任せてよ。アタリは付けれるし。まぁ、多少時間はかかるかもだけど……」


「そうなのか?」


「まぁ……昔、色々あってね……」


「……そっか」


 ホント、アリアの過去に何があったんだろうか。気にはなるが、今聞いたところで何も答えてくれないんだろうな……


「とにかく、ひとまず街に行くまでのことなんだけど……」


「う、うん……」


 何だろう。この服をどうにかしろとかか?

 それとも、この世界の常識を身に着けてもらう、とかか?

 時間は無限にあるように見えて、無限じゃない。有限だ。無駄には出来ない。


「長くなりそうだから、明日にしよっか」


 何でだよ……


誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回は7/10の7~10時くらいと考えておりますので、次回もお楽しみにー( * ॑꒳ ॑*)

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