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1章 6話 魔法と魔術

「ひとつひとつ説明していこうか。まず、簡単なところで治癒術師」


 アリアが紙に書かれた治癒術師のところを羽ペンでトントンと叩く。これは簡単だ。ホントに読んで字のごとくってやつだ。


「まぁ、要するにヒーラーだな」


「ひーらー?」


 アリアが首をかしげる。ヒーラーが通じなかった。


「えっと……怪我とか病気を治すやつって意味」


「あぁ、そういうこと。そういう解釈で間違いないよ」


 アリアが“なるほど”と言わんばかりに手をたたく。


「それじゃあ、アリアも治癒術師を名乗れるのか?」


「そんなに簡単に名乗れたら誰も苦労しないよ。ボクは専門でもなければ、そもそも治癒魔術が苦手なんだよ。治癒魔術は下級で精一杯」


「下級?」


「魔法と……一部例外を除いた魔術は、初級、下級、中級、上級、超級って言うものがあるんだよ。初級は生活魔法って置き換える人もいるかな」


「へぇ……」


「まぁ、魔を生業にする者としては専門じゃなくても下級くらいは覚えてるものだよ」


「そういうものなのか」


 要するに、魔法に階級があって、専門にしている分野以外の分野の魔法でもある程度使えないと、仕事にするには厳しいぞってことか。


「……たぶん」


 アリアが俯きながら、ぼそっとつぶやく。多分って……


「そ、それじゃ、次。付与術師」


 慌てた様子で、強引に話を逸らすアリア。なんてわかりやすさ……


「それも、何となくわかる。仲間の力を増やしたり、相手を弱らせたりするやつだろ?」


「そうだね。付け加えると呪いもここに分類される」


 呪いも?


 まぁ、確かによく考えたらアレもデバフっぽいもの多いもんな。とにかく、これは読んで字の如くだ。わかりやすくていい。


「それじゃあ、精霊術師は精霊を召喚するとかそういうやつか?」


 今のところ、読んで字の如くのものが多かった。精霊術師というのも、精霊と契約してその精霊と戦う……そういうことだろう。


「あ〜……ゴメン。それに関してはボクもよくわかってないんだ」


 言葉を濁すアリア。さっきまでの自信満々の先生はどこ行った?


「どうゆこと?」


「えっとね……説明が難しいんだけど……精霊族だけが使える魔術で、すべての魔法の根源とかなんとかって言われてて……まぁ、そのうち精霊族と仲良くなってから教えてもらえばいいよ」


 先生が説明ぶん投げたらダメだろ……でも、そんなことよりも気になる発言。


「精霊族……」


「まぁ、ボクはそれでもわけわかんなかったけど……人が聞いてるのに、途中で飽きて遊びだすんだもん。飽きっぽいのは聞いてたけど、あそこまで飽きっぽいなんて聞いてなかったよ……」


「いや、ちょっとまて」


 半ばアリアの愚痴になっていたが、アリアの言葉を強引に静止して問いかける。


「どうかした?」


「精霊族ってことは、人間以外にも種族がいるのか?」


「えっ……今更?」


「今更も何も、初耳だっての!!」


「いや……だって、ねぇ……」


 アリアがジト目を向ける。オレを怪しむように見つめる。そして、首をかしげる。


「なんだよ、その目……」


「いや、別に……」


 絶対何か思ってる目だろ、それ。


「まぁ、いいや。種族の話だけど、さっき言った精霊族、キミのような人間族……」


「魔族とかもいるのか?」


「魔族? 魔人族ならいるけど」


 魔人族か。なら、それの王様が魔王ってところか。わかりやすい。


 何はともあれ、あの自称神様の爺さんの言ってた魔王とやらを倒せば、何か変わるのか?

 いや、そんな危険なことしたくないんだけどさ。


「他にも色々いるけど……まぁ、それは追々」


「ちなみに、アリアはどうなんだ?」


 そんなことを考えつつ、アリアが話を終わらせようとしたので、そのことでアリアに聞きたいことを聞いておく。


「へっ?」


 そんな質問が来ると思ってなかったらしく、アリアは呆けた顔をして見せる。


「いや、年齢忘れるほど生きてるんだろ? 人間じゃそうはいかねぇだろ」


 最初、単純に年齢を隠したいだけかと思ってたが、異種族が存在するとなれば話は変わる。

 ここにエルフが存在するのかわからないけど、人間よりもはるかに長寿の種族がいてもおかしくない。

 それに、アリアが異種族ならさっきのジト目もオレが本当に異種族を知らないのか疑問に思って向けたと説明がつく。


「うっ……」


「違ったか?」


 言葉に詰まったアリアを問い詰める。この質問に何か意味があるというわけじゃない。かといって、気にならないと言われたら嘘になる。


「確かにボクは人間じゃない。キミの読みは正しい。でもそれ以上は言わない。詮索もしないでくれると助かるかな」


 ようやくアリアが口にした言葉は、肯定。しかし、深くは詮索するなという警告も含まれていた。


「そうか」


「えっ……」


 そんな言葉の返事に驚くアリア。


「んっ、どうかしたか?」


 そのアリアの驚いた顔に疑問を持ったオレはアリアに問いかける。変なこと言ってなければいいけど……


「聞かないのかい?」


「何を?」


「いや……だから、ボクが聞くなってことに……」


 どうやら、詮索しないことに疑問を持っているらしい。その質問をするアリアの表情にはどこか不安げな雰囲気がある。アリアの言っていた過去の経験に何かしら関係があるのか、無理に聞き取られないのを不思議がられたのか、その両方か。


 その答えは、本人に聞けばわかるだろうが……


「なんで。無理に聞くことでもないしな。本人が言いたくないって言うなら無理に聞くのもマナー違反だろ」


 “言えない”じゃなくて“言わない”と言うことは、本人の意思でそうしてるってことだ。

 本人が嫌だと言ってるのに、この状況じゃ無理に聞き出しても誰も得しないだろう。


「そっか……」


 アリアが俯きながら小さな声で、そうつぶやいたのは聞き取れた。しかし、そのあとに何かをつぶやいていたような気がした。


「なんか言ったか?」


「何でもない……キミはよくわからないなって思ってさ」


 顔を上げたアリアの顔はさっきの不安げな顔ではなく、にこやかに笑ったかわいらしいものだった。


「よ、よく言われる……それよりも、魔法使いと魔術師の違いは?」


 変な空気になってしまったので強引に、話を元に戻す。


「あ、あぁ。その二つの区別はそこまで難しい話じゃないよ」


「そうなのか?」


「うん。キミの言葉で説明するなら、さっきまでの3つ以外で転移魔術……ルーラを使えるか否か。使えたら魔術師、使えないなら魔法使いってわけさ」


「……意味が分からん。アリアも転移魔術使えないんだろ?」


「そうだね。でもボクは代わりに別のものが使えるから」


「代わりか……」


「基礎魔法って言ってね。地水火風……要するに自然現象に干渉する魔法をそう言うんだけど、それとは別に固有魔術ってものがあるんだよ」


「あぁ〜。何んとなく察しがついた」


「察しが良くて助かるよ」


 アリアは視線を再び紙に落とし何かを書き込んでいる。


「細かく言うと基礎魔法と他の魔術を複合さて新たな魔法を作っても基礎魔法に分類される。例えば、ゴーレムとかがそうなるかな」


 いつの間にか紙に人形がガッツポーズをしているようなイラストが描かれていた。これ……ゴーレムだったのか。


「ゴーレム?」


「えっと、基礎魔法ではゴーレムの形を作ることしかできないんだけど、それじゃただの人形。動かそうとすると付与魔術で動かしてやらないといけない。こういうのは、基礎魔術に分類される」


 さらに、魔法使いのイラストや文字等がどんどん書き加えられていく。


「それだったら、別に付与魔術って言ってもいいんじゃないか?」


「基礎魔術で形を作らないと付与魔術をかけることも出来ないじゃないかって考えからそうなってるみたい」


「成程」


「それで、基礎魔術を主体にしている人を魔法使い、固有魔術を主体にしてる人を魔術師。そう呼んでる」


「そもそも、基礎魔法とか固有魔術って言うのは、どうやって覚えるんだ?」


「基礎魔法、治癒魔術、付与魔術は適正である程度の差はあれど、ちゃんと教われば、誰でも覚えられる。まぁ、それなりに苦労はするけど」


「逆に、精霊魔術と固有魔術に関しては、はっきり言って覚えるのは不可能だ」


「不可能っていうのは?」


「まず、精霊魔術。これはさっきも話したけど、精霊族にしか使えない。これは……まぁ、精霊族に会ったら本人に聞いてみるといいよ」


 さっき、話してる最中に飽きられたって言ってたよな?

 聞いてる限り、そんな集中力皆無の種族から何か教わるなんて不可能に思えるのはオレだけか?


「次に、固有魔術。これに関しては“覚える”というより“授かる”と言う方が近い」


「授かる?」


「固有魔術を使える者は、主に二つの方法で固有魔術を習得しているんだけど……一つは、生まれた時に偶然授かるタイプ。もう一つは、親が持っていた固有魔術を子も受け継ぐタイプ。ちなみに、ボクのは後者だ」


「他にはないのか?」


「ない……はず。少なくともボクは聞いたことがないかな」


 だから、オレは覚えられないってことね……


「あと、他の魔法と違って、固有魔術に関しては初級も超級も存在しない。さっき言ってた一部例外っていうやつだね」


「そうなのか。なんでまた」


「簡単な話さ。固有魔術なんてものは、使える魔術師がとてつもなく少ないんだ。血縁で授かったものはともかく、偶然授かった場合、そもそも存在を認識する前に死ぬことなんてざらにある」


「そうじゃなくても、使用者が少ないんだ。何を基準に強い弱いの判断をすればいいかなんて誰にも分らないんだよ」

 成程。初級だの超級だの存在したところで、意味をなさないってわけか……


「なぁ、固有魔術を持ってるとかってどうやってわかるもんなんだ?」


「ギルドにある魔導具を使えば、簡単にわかるはずだよ」


 そんな魔道具があるのか……

 どういう原理でそれが判明するのか気にはなるが、何はともあれ……


「よし、街に行こう」


「えっ、今から?」


「オレにとっては死活問題だ」


 ルーラを覚えるかどうか。今後の生活を考えると死活問題なんだよ。いや、結構マジで。


 ギルドに行って確認なんてしたことないんだから、実は知らないだけで覚えてるかもしれないだろ?

 ルーラを覚える可能性がわずかでも残されてるんだったら、それを試すべきだ。


 ここが町中ならそんなことも言わなかったけど、窓からは青空と森しか見えねぇんだよ。

 何かするのに数時間歩いてからとか、それだけでも嫌気がさす。


「何がキミをそこまで言わしめるのかわからないけど……ひとまず、キミ。そのまま街に行ったら即捕まるよ」


「……………………」


「はぁぁぁぁっ!!!?」


 今日何度目になるかわからないオレの絶叫が、この小さな小屋に鳴り響いた。

誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回は7/9の7~9時頃を予定してますー( * ॑꒳ ॑*)

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