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2章 幕間① シャルロット=ルージュ

今回のお話は、アリア視点でのお話になります。


裕斗くんが気絶している間の出来事です。

「って、そこの彼……気を失ってない?」


 ユートくんが力尽きた。おそらく魔力の使い過ぎが原因だろうから、死にはしないと思う。死にはしないと思うけど……やっぱり心配だ。


「まぁ、結構無茶させたからな……しばらく寝かせてやってくれ」


「確かに……五重詠唱って、ひとりに対して使う魔法じゃないわよ」


 ユートくんが倒れた一番の原因は、ユート君の中にいたレオスが一番最後に使った魔法。

 魔法というのは、基本的に詠唱が長くなればなるほど、二重詠唱よりも三重詠唱のほうが、消費する魔力が多くなる。消費する魔力が多ければ多いほど、当然魔法の規模も威力も大きくなる。

 まして五重詠唱の魔法なんて、魔法を始めて使う人間が使う魔法じゃない。それどころか、普通初めて魔法を使う人間が、使おうと思って使える代物(しろもの)でもないはずだ。


 なのに、レオスは一度も魔法が使ったことのないユート君の身体で、それをやってのけた。

 それに関しては、純粋に驚愕に値するんだけど、そんなやたら魔力の使う魔法を使った代償は目に見えていた。ユート君が力尽きて気を失うのは当然の結末だ。

 見えていなかったのは、相手の実力。正直、あのレベルの魔法を受けて無傷とか、常軌を逸してる。


「そこのメイドが化け物すぎるのが悪いんだよ」


「…………屈辱」


 ボクとしては、レオスの意見に同意なんだけど、何がそんなに悔しいんだろう?


「その人間……攻撃あてた……」


「仕方ないじゃない。あの手の相手はクレアの苦手なタイプでしょ」


「……次は……負けない」


「負けないって……あれを負けにカウントするのかよ」


「うるさい……」


 レオスの突っ込みももっともだ。あのまま続けてたら、どう見てもあのメイドの子が勝つ流れだったと思うんだけど。


「はいはい。それにしても3人がかりで戦ってかなわなかった相手が、3人の中で一番戦闘の素人を敵として認識するとか……」


 レオスが感慨深そうに語る。戦った身体はユートくん、ただ身体を動かして戦っていたのはレオスだ。複雑な事情があるだけに、ボクは何とも言えないんだけど……


「そうなの? あんな大魔法使うほどの魔力があるなら、それなりに戦いこんでると思ったんだけど」


「そうだよ。あんちゃんの手を見てみろ。こんな綺麗な手をしたやつが戦い慣れしてるわけねぇだろ」


 レオスは抱きかかえているユート君の手を黒ローブの子に見せつけ、その綺麗な手を見た黒ローブの子も感嘆の声を上げる。


「ホントだ……どこかの坊ちゃんなのかな?」


「本人が否定してたから、多分違うと思うぞ。それに本当に坊ちゃんなら、こんなとこまでこねぇよ」


「それも、そっか」


「まぁ、あんちゃんが何者かなんてどうでもいい。それよりも……」


「な、なによ……」


「テメェ……俺に一体何の用だよ」


 レオスの声のトーンが一気に落ちる。ドスの聞いた力強い声だ。しかし、その声を聴いたところで、ライカの身体は幼い女の子。力強いと言ってもたかが知れてるし、実際に相手は何の反応も示してない。


「あなたには用はないわよ。用があるのは“銀龍の拳”リーダーのノー・フェイスさん。確かにあなたに興味がないわけじゃないけど、シャルたちもわざわざ正体を隠してまで人間の街にきてるんだから、先に用事を済ませたいの」


「はぁ……」


 あくまでも目の前のレオスを探し人と信じていない様子の黒ローブにため息をついたレオス。もしかして、さっきの力強い声って、少しでもリーダーの風格を出そうとしてたとか?

 もしそうなら……レオスには悪いけど、その体で威厳とか風格とか求めるのは諦めたほうがいいよ、うん。


「そういえば……」


 そんなレオスを見ていると、メイドの子が何かを思い出したかのようにつぶやく。


「どうしたの、クレア?」


「そこの死霊族……前に会ったとき……リーダーだって……」


「あなたが?」


「なるほど……勘違いされてるってわかった状態で聞くと、どこか虚しさがあるな……」


 声の感じからして、もしかしてレオス泣きそうなのかな?

 ライカちゃんの身体にレオスが戻ったからか、前髪でまた顔を隠してしまってるから表情がうまく読み取れない。


「もしかして……」


「俺が“銀龍の拳”リーダーのノー・フェイスだよ。こんなナリでいっても信じねぇかもしれねぇけど……というか、実際にそこのメイドは信じなかったしな」


 その言葉を聞いた瞬間……


「く~~れ~~あ~~」


 黒ローブの子が思いっきりメイドの子のほっぺたを引っ張る。


「“ノー・フェイス(顔なし)”なんて名乗るくらいだから、容姿で判断しちゃダメだって言ったじゃない!!」


「……ごめんにゃひゃい」


 黒ローブの子がメイドの子をしかりつける。どうやら、二人がレオスを探してるというのは本当らしい。


「いひゃいれふ……」


「痛くしてんのよ!!」


 ……それにしても、機工族なんてしばらく見てなかったけど、想像以上に感情豊かだね。

 昔、一度だけ会った機工族の子たちは、特に会話をする前に灰にしちゃったから、あんまり覚えてないだけかもしれないけど。


「さて、茶番はいいとして、信じてもらえたってことでいいのか?」


「えっと……正直、まだ信じられないけど……まぁ、いいわ」


「なんか引っかかる言い方だな……」


 レオスはいまだに納得してない様子。まぁ、気持ちがわからないでもないけど……


「ところで……そこの」


「うっ!?」


 メイドの子がこっちを見てる。ボクの話じゃなかったから、油断しちゃってた。思わず変な声が出ちゃった気がする。


「……気づいてやがったのか」


「あれだけの戦闘……普通なら、逃げる……なのに、逃げない……おかしい」


 どうやら、勘違いで声をかけたわけじゃなさそうだ。


「あはは……ちゃんと隠れてるつもりだったんだけどねぇ」


「その声……どこかで……」


 黒ローブの子が不穏な言葉をつぶやく。

 顔や髪はローブに隠してはいるけど、声までは隠せない。もし、他人の空似とかじゃないのであれば、ボクとそれなりに関わりをもった人物ということになる。

 一度会っただけの人物の声なんて、不意に思い出すものでもないだろうし。


「ねぇ。そこのメイドさん。一つ聞いてもいいかい?」


 少しばかり強引だけど、話題を変えて誤魔化す。黒ローブの子がそれに気づいて、問い詰めてきたらどうしようか……

 不安はある。焦りもある。それでも、ボクはこの二人に確認しとかないといけないことがある。


「……何?」


 メイドの子が相変わらず無表情でボクの問いかけに応じる。

 黒ローブの子もボクの声のことは、ひとまず追及してくる様子はない。ボクは大きく息を吸い込み、吐き出す。


「さっき、なぜマリアと戦ってたの?」


「……向こうから、襲ってきた」


 メイドの子はボクの質問に答えてくれた。どうやら話の通じない相手ではない様子。


 とはいえ、ボクの聞きたいことはそれじゃない。


「キミはそういうけど、ボクにはどうも腑に落ちなくってね」


「嘘……言ってない」


「まぁ、あいつは暗殺者だからな。敵と話してる最中に切りかかるなんてことはしねぇよな、普通」


「……あなたたちはクレアが、この子が嘘をついていると?」


「そうは言ってないよ。でも……」


 マリアは暗殺者だ。暗殺者とは、相手の意識の外から誰にも気づかれずに、相手を殺すのを生業としている。

 そんなマリアが1対1で話している最中という、どうしても相手の意識はマリア自身に向いている状態ででの戦闘。こんな暗殺に向かない場面での戦闘は暗殺者としては落第だ。普段のマリアならその場での戦闘は避けるはず。


 しかし、実際には戦闘がおこった。マリアは自らが苦手としている正面戦闘を仕掛けた。


「マリアがあの場でキミを襲う理由があったはずなんだよ。ボクはそれが知りたい」


 マリアはそんな馬鹿な子ではない。ならば、そこには理由があるはずだ。マリアがあそこまで戦闘に固執した理由が。


 例えば……


「……知ってどうする?」


 ボクの考えを遮るように、メイドの子は淡々とボクに質問をする。


「知ってから考えることにするよ」


「…………」


 ボクの回答にメイドの子は黙り込んでしまう。メイドの子は黙って黒ローブの子のほうを向く。


「……いいわ。クレア。話してあげなさい」


 それを見た黒ローブの子も渋々といった感じで了承する。


「……ノー・フェイスに会わせろと言った」


「うん」


「……そしたら、私が聞くと言ってきた」


「言わなかったのかい?」


「……本人に会ってから話すといっても聞かなかったから仕方なく……」


「それで、そのリーダーに会って話したいことって何だったんだい?」


「…………」


 またしても黙り込んで、黒ローブの子のほうを見る。


「いいわ。関係者であることでは間違いなさそうだし。ここまで言ってだんまりというのもおかしな話だからね」


「……“銀龍”の居場所を教えてほしい……と」


「テメェら……」


 レオスの声に怒気が混じる。


 それにしても“銀龍”か……懐かしいな。

 その言葉が出たんなら、マリアが怒るのも無理はないし、マリアが戦った理由もわかった。レオスが怒ってくれたことだけが少しだけ意外だったかな。


 “銀龍のアリア”……略して“銀龍”


 ボクの昔の通り名だ。その言葉をいまさら引っ張り出してくるなんて……


 その通り名を知っているということは、やっぱりボクのこと知ってるんだろうね。

 当時の人たちは、その通り名を笑ってたし、ボクが実際に戦うところを見てないとその通り名の意味を理解できないだろうしね……


「えっと、勘違いしないでほしいんだけど、別に“銀龍”に会って捕まえようとかそういう話じゃないから」


 黒ローブの子が身振り手振りで、慌てて否定する。どうも嘘をついているようには見えない……かな。


「……だったら、何の用だよ」


 この黒ローブの子がボクの昔の知り合いだと仮定して……いったい誰だろう。


「その言い方……“銀龍”の居場所を知ってるのね?」


 背丈は、メイドの子とさほど変わらないかな……声やしゃべり方からして女の子。さっき“人間の街に”って言ってたから、おそらく人間じゃない、他種族の子……


「知ってるよ。テメェらこそ、捕まえねぇっていうなら、どういう用だよ」


 ローブからでた赤い緋色の髪には見覚えがあるけど、あいつ……彼は男だし、背丈もユート君よりも高かった。


「……ちょっと話がしたくて」


 そもそも彼はもう……


「話だと?」


「えぇ……お父様のお話を」


 お父様……?


 そんな何でもない単語がボクの胸に引っかかる。そういえば……


「死んだお父様の話を聞きたくて……昔、その“銀龍”はお父様と一緒に旅をしていたことがあると聞いたので」


 ボクと一緒に旅をしていたという黒ローブの子のお父さん……ボクと一緒に旅をしていた緋色の髪の男なんてたった一人……


「……ねぇ、キミの名前を聞いていいかい?」


 ボクは恐る恐るその名前を聞く。


 もしボクの予想が正しければ、ボクはこの子に恨まれてるだろう。そして、この子にはボクを殺す理由がある。

 話し合いの末にボクと戦闘にでもなったら、ボクに勝ち目はない。それどころか、魔力欠損病で碌に魔法が使えない状態のボクが、マリアたち三人と戦えるメイドの子と戦えるわけがない。


「そういえば、まだ名乗ってなかったっけ……」


 黒ローブの子は、そのフードをとって顔を見せる。その顔を見て名乗る前なのに、これから名乗ろうとしている彼女の名前がわかってしまった。


 前もって情報がなかったら……彼女の口から“銀龍”の名が出てなかったら、名前を言われないと気づけなかったと思う。


 凛々しく力強さを持った真紅の瞳、その眼にはどこか彼の面影を感じる。

 彼は無駄に大きい図体をしていたから、その細く整った顔立ちや体形は、お母さん譲りなんだろう。彼の奥さんは確かにきれいだったし胸も……胸も大きかったし。その辺もちゃんと遺伝しているんだろう。


 その子の名は……


「この子はシャルのお付きのメイドのクレア。シャルはシャルロット=ルージュって言うの」


 シャルロット=ルージュ。彼女は……


「今は亡き魔王、アレク=ルージュの娘です。お久しぶりです、アリアさん♪」


 魔王だった、アレク……ボクの昔の仲間の娘だ。



誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。




次回投稿は、7/29の18時頃を予定しています。

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