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2章 14話 増援

「マリアが言うだけあって、この身体……氷魔法の適性が高いな」


 レオスが自ら放った魔法を見ながらそんなことをつぶやき、再び手をかざす。


「それじゃ……次。“ダブル・バレット・ディ・フリーズ”」


 再びレオスが呪文を唱える。再び気持ち悪さがオレを襲う。しかも、さっきよりも増した気がする。

 身体の中の気力みたいな見えない何かをそこに集める感覚……


 もしかすると、これが以前マリアの言っていた“魔力を込める”ということなのかもしれない。

 この気持ち悪さをいつも感じながら魔法を使わないといけないのか、はたまた今はレオスがオレの身体に入り込んでいるから、この気持ち悪さを感じているのかは謎だが、少しだけあの時のマリアの言葉を理解した気がした。


 とはいえ、今は戦闘中。あまり余計なことを考えている余裕はない。


 ……とは言っても、オレが別のことを考えていたところで身体を動かしているのはレオスだし、あいつが変なことをしない限り大丈夫だろう。


 改めて、目の前で行われている戦闘に注意を払う。


「いいぜ、あんちゃん……正直、これならマリアより氷魔法の適性あるんじゃねぇか?」


 レオスが嬉しそうにそんなことをつぶやく。


 再び手の先に冷たい何かが流れていった。しかし、先ほどとは異なりその冷たい何かは淡い光とならずに、手のひらの上に魔法陣が浮かび上がらせた。

 幾何学模様の魔法陣は、マリアのものと同様に円形でくるくると回っている。魔法陣の一部は文字のような絵のような部分が存在しているが、マリアの使った魔法の魔法陣からすればかなり少ない。


 当然だ。オレの手のひらにある淡く薄い水色の魔法陣は、マリアのと比べるとかなり小さい。マリアの魔法陣は人一人が中に入れるくらいの大きさがあったのに、オレのはどうだ。手のひらを大きく開いて、そこから少しはみ出すくらいの大きさしかない。


「二重詠唱も……問題なさそうだな」


 レオスは手のひらに出来た魔法陣を見ながらそんなことも呟く。

 二重詠唱。つまり同じ魔法を一つの詠唱で2度唱えたということだろう。その結果、同じような呪文でも魔法陣が出たりでなかったりしたということだろう。


 手のひらの魔法陣から今度は10個の氷の弾丸が出来上がる。先程の倍の数。つまりこれが二重詠唱の効果ということだろう。


 そして、その倍の数になった氷弾は先ほどと同様メイドに向って投擲される。


 とはいえ、こんな奇襲めいた攻撃は、一度目はともかく二度目は当たらない。標的にされたメイドは、マリアとライカ、二人の攻撃をかわしながら、氷の弾丸を手刀で叩き落す。


「いやいや……なんだよ、あのメイド。化け物かよ……」


 その場に他の人間がいたとしても、同じことを思っただろう。戦闘に関して、ド素人のオレですらわかる。あのメイドがどれだけ規格外か。どれだけ異常なのかを。


 今、目の前で行われている戦闘は、ゲームじゃない。漫画や小説などの創作物でもない。紛れもない現実だ。現実であるがゆえに、それらと違って、体の動かせる限界というものが存在するはずだ。

 限界がある状態で、3人の攻撃を同時にかわすことの異常性、最早人間業を越えている。いや、あの子は人間じゃないんだけどさ。

 とはいえ、見た目は人間とそんなに変わるわけではないわけだし、動ける限界に関しては、人間と遜色ないだろう。


 オレはともかく、マリアとライカはれっきとしたこの世界の住人で、戦いの中で生きてきたはずだ。戦闘がに日常茶飯事というわけではないだろうが、慣れてないなんてことはないはずだ。

 そんな二人が弱いわけがない。マリアは十数人いたチンピラたちをたった一人で制する実力を持っている。ライカだって、あんな特殊な武器を扱っているんだ……技量に関しては申し分ないはずだ。

 こんなことを言うのもなんだが、オレだって、オレの中にいるレオスは闇ギルドのリーダーをしている奴だ。普通の会社ならともかく闇ギルドのリーダーが弱いわけがない、そんな奴がオレの身体を使って戦っている。


 この三人を相手取って戦えているあのメイドは一体何者だ?


 もしかすると、戦ってはいけない相手だったんじゃなかろうか。そんな考えが頭をよぎる。


「…………あんちゃん」


 そんなことを考えていたら、レオスが虚空……オレに対して呼びかける。


「ちっと無理する。あと一回……それだけでも、無理して耐えろ」


 そんな宣言をして、目を閉じる。それと同時にオレの世界が闇に閉ざされる。


「“クインティ・スピア・レイン・ディ・イル・フリーズ”!!」


 レオスがオレの口を使って、オレの中の気力……いや、魔力を使って、呪文を唱えた瞬間に、とてつもない倦怠感が身体を襲う。


 吐きそうだ、これはヤバイ……


 今まで聞いた呪文の数なんてたがが知れてる。その中でも一番長い呪文だ。おそらく今唱えられる呪文の中で一番の高威力の魔法なんだろう。

 とてつもなく、気持ち悪く、吐きそうで、頭が割れそうな痛みがオレを襲う。事前にレオスから注意されてたとは言え、この迫りくる苦痛にオレは……オレは……


「無茶し過ぎだよ、レオス!!」


「はぁ……はぁ……」


 アリアに声をかけられ、レオスがうっすらと半目を開けたことにより、オレにも視界が戻る。

 光がオレの世界に差し込んだことで、ほんの少しだけ気分が軽くなった。以前気持ち悪いことには変わりないが、そんなことが気にならなくなるような光景が目の前で起きていた。


 あたり一帯に不気味に浮く氷の槍。そのすべての矛先が、あの戦いの中心にいるメイドに向いている。その中心にいるマリアたちの反応は三者三様だ。

 マリアは氷の槍すらも足場に、その場から離脱すし、メイドもその場から退避しよと考えたようだが、ライカが器用にメイドの手首に鎖を巻き付けて、その場から逃がさない。


 そして……


「……ちっ」


 氷の槍はまるで嵐のように、二人に襲い掛かる。

 黒焦げになった壁や焼け焦げた何か、そんなものも巻き込んで氷の槍の嵐は、轟音を立てながら破壊する。


「お前……いや、今はレオスだな。この魔法を使うのなら先に言え」


「はぁ……礼、くらい……はぁ……はぁ……言えねぇのか、お前は……」


 いまだに止むことのない氷の槍の嵐は、周囲の建物すら倒壊させ、瓦礫へと変貌させる。


 そんな光景を見ながら、いつの間にかオレの横に立っていたマリアが悪態をつく。オレに対してではないにしても、きついものがある。

 オレの身体にいるレオスは、息も絶え絶えにマリアの悪態に対応する。肩で息をしているレオスには、どう見ても疲労感がたまっている。しかし、それはオレの身体であって、オレも同様にかなりの疲労感を感じている。

 正直、返事もやっとだ。


「危うく巻き込まれそうになっただろ」


「レオス君。大丈夫?」


 いつの間にか嵐の中から退避していたライカが、オレを見て心配そうな声をかける。オレに対して出ないにしても、心配されると少しだけ心が和らぐ。


 ……この二人の差はなんだろうな。性格の問題だけじゃないと思うんだが。

 ライカはマリアのことを親友と評していた。この二人が親友って……むしろ接点なんてなさそうなものだ。


「大丈夫じゃない……早くこの身体から出たい……が、あいつがそれを許してくれないだろうな……」


 視界に移ったそれを見る。そのレオスの発言につられ、マリアたちも前方を見る。


 氷の槍の嵐。前後左右、そして頭上からの一斉に襲い掛かる氷の槍は、間違いなくメイドにダメージを与えていた。過剰な攻撃の気もしたが、3人がかりで攻撃して、今のところ不意打ちの一発が入っただけだ。こうでもしないと攻撃が当たらないとレオスは判断したんだろう。


 そう思っていた。目の前の光景を見るまでは。


「機工魔術ってのは、あんなことも出来んのかよ……」


 建物の一部が倒壊したことで風通しが若干よくなり、風がその場に立ち込めたほこりを払った。

 そこには、倒壊した建物の瓦礫、それらに刺さった氷の槍。その中心には、さっきまで存在していなかった真紅の球体が鎮座している。

 もちろん、真紅の球体自体にも氷の槍は刺さっているが、突如現れたそれが何の意味もなくそこに鎮座しているわけがない。

 真紅の球体と入れ替わるように、いなくなったメイド。それが表すのは……


「……危なかった」


 真紅の球体が溶けるようになくなり、刺さっていた氷の槍が音を立てて地面に転がり落ちる。その中からは、無傷のメイドが現れる。


「……なぜここに? シャルロット様」


背後を見るメイドの後ろには、いつの間にか新しい影がいた。



誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回更新は、7/27の18時頃を予定していますっ!

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