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1章 2話 神様とケンカした

 

「お主ら、初対面なのにいきなり叫び声をあげるなんてひどくないかの」


 白いローブの爺さんは、オレたちの驚きなどどこ吹く風で、ゆっくりと話し始めた。


「驚いてんだよ!! 誰だ、ジジィ!?」


 しわだらけの顔に、伸ばしきった白い髭。対照的に頭の方は寂しいことになっていた。

 そんな“いかにも”な爺さんが音も立てずに背後に立ってるんだ。驚くなという方が無理な話だ。


「ワシか?」


「他に誰がいるって言うんだよ」


 怪しさ満点の爺さんがすっとぼけるのに、イラっとして口が荒くなる。


「なんじゃ、今回の召喚者は空気が読めんようじゃの……」


 その上、空気が読めてないやつに、空気が読めてないやつ扱いをされた。


「えっ、召喚者って……」


「まぁ、順を追って説明してやるから、しばし待つのじゃ」


 …………嫌な予感がする。


「まず、お主らには異界の言語を自らの言語として理解できる力を与えておる。そうでもしないと、ワシらの言葉を理解できんからの」


「もちろん、逆も然りじゃ」


 ほらな。こういう嫌な予感ってよく当たるんだよ。嫌なほどに。


「…………ねぇ、裕斗君」


 神崎が服の裾を引っ張ってオレを呼びかけ、小声で話しかける。


「なんだよ」


「リンゴは英語でなんて言うの?」


 神崎が真剣な表情で、馬鹿にしたかの様な質問をしてきた。


「急に何言って……」


「いいから、答えて」


 あぁ、なるほど……


「アップル……」


「ごめんね、変なこと聞いて。お爺さんの言ったことが本当かどうか確かめたくって」


 デスヨネー


「で、結果は?」


「アップルだった」


 あれ? ここは“リンゴ”って聞こえるべきところじゃないのか?

 あの爺さん、意味深なこと言っておきながら、英語非対応ってどうなの?


「それは、そもそもお主らの世界の言語だからじゃろ。信じられぬというのなら……こほん」


 爺さんが軽く咳払いをする。そして……


「−−−−−−−−−−−−−−−−」


 爺さんが口を動かすと、その口から出てきたのはもはや声じゃない。騒音とも呼べる凄まじい音が鳴り響く。まるで、黒板を金属でなぞったような嫌な音だ。思わず耳をふさぐ。

 隣にいる神崎も見るが、神崎も同じように耳をふさいで、眉間にしわを寄せている。おそらく、オレと同じように聞こえているんだろう。


「な、なんだ、今の……」


「わからない……私にはノイズ音にしか……」


「人間に神の言葉など早々聞こえるわけがなかろう」


 もしそれが本当なら、神様ってこんなノイズで会話できるものなの?

 それはそれで気になる。


「で、今なんて言ったんだ?」


「そのような些細なことどうでもよかろう。それよりも、もうワシの正体も察しはついてると思うが……」


 正体もクソも、今自分で言ってたしな……


「神様……」


「いかにも」


 神崎がぼそりとつぶやくと、自称神様がそれを肯定する。


「はいはい、そう言うのどうでもいいから」


 しかし、オレはというと半ば呆れ気味にそんなことをつぶやいていた。


「ちょっ、裕斗君!?」


 そんなオレの言葉を聞いた隣の神崎が顔を真っ青にして驚いた顔を見せる。


「なんだよ」


「相手は神様だよ? なんでそんな態度が取れるの?」


 すっかり、この爺さんの言うことを信じ込んでいる。将来、詐欺師に引っかからないか心配だな、こりゃ……


「なんでって……これは夢じゃねぇか。急に別世界の言語を理解できるようになったって言われて信じられるかっての」


「それはそうだけど……」


 言葉が詰まった神崎に対して、さらに追撃する。


「大体、こんな胡散臭い爺さんの言うこと信じてやる義理はない」


「ちょっと、いくら何でも失礼でしょ!!」


 オレの両肩をもって激しく揺らす神崎。おかげで視界が揺らぎに揺らぎまくる。正直、少し気持ち悪くなってきた……


「揺らすな、揺らすな」


「ほら、神様の顔を見て。神様、怒ってるよ!!」


 揺らすのをやめたと思ったら、今度は顔を抑えて強引に爺さんの方へ向ける。正直、少し痛かった。


「いや、どこからどう見ても、しわくちゃな爺さんだけど」


 本当に怒ってるの?

 オレには、しわくちゃな爺さんが(たたず)んでるようにしか見えない。

 しわが深くて、前見えてんのか疑問を疑うレベルの爺さんだぞ。感情を読み取れるお前の方がすごいと思うんだけど。


「神様はそういうものなの!!」


「お前も大概、失礼なこと言ってるけど自覚ある?」


 目の前の爺さんを神様というなら、お前はもう少し口を慎んだほうがいいと思うんだけど……


「いいから、謝って!! こんなところで、天罰なんて受けて死んじゃったらどうするの!?」


 そんな思いは神崎には届かず、神崎はオレの頭を押さえて強引に頭を下げて謝らせようとする。


「だから、これは夢だって……」


「いいから!!」


 “これは夢だ”と言っても受け入れようとしない。信じるのは勝手だが、その主張を押し付けるのやめてくれないか……


「あ〜もうよい。それより話を進めてもいいかの?」


 爺さんは、オレたちの茶番に付き合いきれなくなったのか、再び話しかけてきた。


「あっ、はい。どうぞ」


「こほんっ。まずは、お主らには謝っておかねばならん。すまなかった」


 謝るくらいなら、行動に移すなよ……何しでかしたのか知らねぇけど。


「こちらの落ち度にはなるんじゃが、ワシの作った世界の危機を救ってほしいのじゃ」


「うわっ……なんつーーテンプレ展開」


 いくら夢だからって、もうちょい捻り(ひねり)を咥えろよ……

 って、オレの夢にオレが文句言っても仕方ねぇな……


「こほんっ……ワシはの。まだ人間だった時、物語の中の魔法にあこがれた。長くなるから説明は省くが、神になって世界を作ることになったのじゃが……」


「いや、そんなことどうでもいいから、とっとと元に戻せ」


「魔法を作り出したのと同時に、魔物をはじめとした人間以外のものを生み出した。せっかく魔法を作ったんじゃ。使う相手も必要じゃろうと思っての」


 あ〜。はい、無視ですか。そうですか〜


 人の話を聞きやがらねぇ、この自称神様。人を空気読めない奴呼ばわりしたり、人の話を無視したり、こんなんが神様でいいのか?

 いや、ホントに。こいつを神様認定したやつ出て来い。文句言ってやらぁーー!!


「しかし、人間以外が強くなり過ぎたんじゃ。今となっては、人間は数が多いだけの種族になってしまっての」


「いいじゃねぇか。数は力だ。兵法の基本だろ」


「そして、ついに魔王が現れてしまっての。アレは人間には太刀打ちできん。いずれは世界を丸ごと崩壊させてしまうじゃろう」


 自称神様は、相変わらずオレの話を無視して話を続ける。ちょっと、ぶんなぐってやりたい……


「そこで、お主たちには、ワシの作った世界に行って、魔王を倒して欲しいのじゃ」


 ……ツッコむの疲れたんだけど。誰か変わってくれない?


 神崎も、黙って話聞き行っちゃうし……


「もちろん、それ相応の力を与えるつもりじゃ。簡単には死なんようにな」


「はぁ……」


 思わずため息をつく。


「ちょっと、裕斗君!!」


 それに即座に反応する神崎。もはや、打ち合わせをした漫才か何かかと疑いたくなる。そんな打ち合わせはしてないが……

 まぁ、夢なんてご都合主義の塊だろ。こんなこともあるって。漫才にしては、反応しない爺さん一人しか観客がいないけど。


「いや、飽き飽きするほどにテンプレ展開だなぁって思って」


「それは私も思ったけど、言わないお約束じゃないの!?」


 思ったのかよ。


「普通ならそうかも知れねぇけど、たかが夢なんだから、そこまでお約束守らなくてもいいんじゃないかと思って」


 胡散臭くて失礼な爺さんの言うことなんて、まともに取り合う必要もないしな。

 礼儀には礼儀をもって返す。礼儀の欠片も見えないこいつにかける礼儀なんて知らん。


「それに、これは夢なんだから、目が覚めちまえば何もなかったことになる。つまり、何をしても許されるってことだ」


「嫌な予感がするんだけど……まさか“自称とはいえ、神に反逆するオレかっこいい”とか思ってないよね?」


 呆れた顔をしながらオレを見つめる神崎。

 神崎の口にした言葉……他の人はともかく、オレにはとても刺さる言葉だった。


「なぜバレた!?」


「裕斗君……“暗黒堕天使の黙示録、第……”」


「ぎゃぁぁぁぁっ!!」


 “暗黒堕天使の黙示録”


 それは、思い出したくもない、忌々しい遺物……


「おまっ!? なんで、それ、オレの黒歴史を!?」


「そんなに恥ずかしいなら、隠すんじゃなくて処分しようよ……」


 中二病時代の妄想をつづった冒険譚というか、自作小説というかポエムというか……まぁ、要するに黒歴史だ。


「あ、あれは封印指定物だ。処分する前に他の誰かに見られたりなんかしたら死ぬぞ」


「そんなわけないでしょうが」


「いや、死ぬぞ……オレが」


 理解できないと言わんばかりの顔をするが、冗談抜きで死ぬ。主に、オレが。


「あ〜……うん。頑張って」


「……適当な言葉思いつかなかったからって、テキトーに返事しないで。泣くぞ」


 もう心の中では、号泣してるよ。何が悲しくて、夢の中でまで黒歴史を暴露されにゃならんのだ……


「はいはい。泣くならお姉さんの胸貸してあげようか?」


「お姉さんって……同い年だろうが」


「私の方が1日早く生まれたでしょうが」


「さして、変わらんだろうが……」


 一日早く生まれたからって、お姉さんぶる神崎。クラスの連中が見ると、殺意のまなざしを向けてくるからやめて欲しい。いや、結構マジで。


「こほんっ!!」


「あっ、すみません。話し込んじゃって……」


 爺さんが、わかりやすく咳き込み、オレたちの会話を遮る。


 ……というか、まだ居たんだ。


「よいよい。それで、お主らに与える力の話じゃが……」


 オレのツッコミは完全に無視でも、神崎の謝罪には許してやる器量があんのか、この爺さん……


 マジで一発殴りたくなってきた。殴っていいですか?


 いや、そういえばここって夢の中だったわ。何をしても夢から覚めたら元通りになるんじゃね?


「いや、そう言うのはもういいから」


 とはいえ、オレは人間。人間は理性のある生き物だ。感情でいきなり殴りかかるのはよくない。 

 でも、これ以上話してると、マジでぶん殴りそうだ。だから早く終わらせてくれない?


「ぬっ……」


「いや、もうこんなテンプレ展開のオンパレードはお腹一杯だから」


「いつも思うんだけど、こんなテンプレ展開に巻き込まれた主人公たちって“どうして自分がやらないといけないの?”とか“どうして自分が選ばれたの?”とか思わなかったわけ?

 いきなり、チートスキル与えられて、調子乗ってんじゃねぇの?

 そんなのは、創作の中だけで十分。実体験するのはまっぴらごめんだっての」


 最近よく見るテンプレ展開について物申す。

 だからこそ、その手のアニメのストーリーに興味なんてない。だって、ほとんどが同じ展開なんだもの。

 だから、オレはシナリオよりもイラスト、作画を重要視する。そして、そのことをあのシナリオ厨共にわからせにゃならんのだ。


 だから……


「もういい加減、目を覚ませ、オレーーー!!」


 心の底から叫ぶ。隣の神崎は、最早止めるのをあきらめたような顔で“やれやれ”とか言ってる。


「……もうよい」


 オレの叫びを聞いた爺さんが、ゆっくりとオレに近づいてくる。


「そうか。なら、とっとと、ここから出してくれ」


「言われんでもそうするわい」


 どうやら、ようやくこのテンプレ地獄から解放されるらしい。


「こんな長々と話したのに、ずいぶん物わかりがいいな」


「そもそも、この召喚法は術式を展開したら誤作動も中断も邪魔も出来んように綿密に構成したからの」


「はいはい。御託はいいから。とっととしろ」


「というわけで、お主を元の世界に戻すことはできん」


「はいはい。そういうのもいいから」


「後悔しても知らぬからな」


「神様らしくもない悔しまぎれの捨てセリフだな」


「まぁ、出来るとは思わんが、こんなやつでも魔王を倒せるかもしれぬしの。せいぜい死なぬようにな」


 オレの胸に手を当てる爺さん。そして、その光景を最後に、オレの視界は真っ白に。



 そして、真っ暗に……



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