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2章 13話 1対3

 隣に立っていたライカが、手首についている手枷から伸びている鎖を手に取り……その場から駆け出す。

 フェイントも何もない、正面突破だ。マリアとメイドが戦っているところへまっすぐ突っ込んで行った。


 手に持っている鎖は、鎖と鎖、鎖と地面、鎖と壁、あらゆるものとぶつかり、擦れ、大きな音を立てている。

 そんな目立つことをしていても、ライカの速度はオレの全力疾走とさほど変わらない。あの体型であの速度が出れば十分速い方だと思うが、それでも速度上昇の魔法がかかっているマリアや、そのマリアの攻撃を捌き続けているメイドと比べればかなり遅い。


「増援……」


 当然、その大きな音も相まって、すぐに二人に捕捉される。


「面倒……」


「“ライズ・ディ・イル・フォース”!!」


 ライカの突進に気付いた二人の反応は、それぞれ違った。


 メイドの方は、マリアの攻撃を捌きながら、ライカの方にも注意を割いたようで、少しばかり顔色が曇ったようにも見える。


 一方でマリアの方は、ライカを指さし、叫ぶように呪文を唱えた。

 魔法を受けたライカの足元には、白く輝く魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣はマリアがチンピラを倒した時と同じくらいの大きさで、同じようにライカの周囲をくるくると回転している。


 しかし、その魔法陣はさっきのそれとは少し違って、幾何学模様の一部……何かよくわからない文字のような絵のような部分が、違うような気がした。

 呪文も違ったし、あの時の呪文とはまた違った呪文だろう。


 フォースと言えば、某映画を思い出すが……あの映画だとフォースと言っても多種多様のよくわからん力だったような……


 そんなことを考えてると、いつの間にか魔法陣は消えていて、ライカがメイドのすぐそこにまで接近していた。


「せぇぇぇぇい!!」


 ライカが大きな声を上げ、手に持った鎖を大きく振る。その鎖はまるで鞭のようにしなりながら、メイドに向っていく。


「…………」


 メイドは無言で背後に飛びのき、ライカのその攻撃をかわす。

 かわされはしたが、ライカの勢いは死んでいない。その勢いのまま、身体を捻り、身体全体を使って第二撃を繰り出す。体全体を使ったその鎖での横薙ぎの攻撃は、先ほどの雷での燃え残った燃えカス、焦げ跡の残る壁をえぐり、大きな音を立てながらメイドに襲い掛かる。


 そしてマリアが、その攻撃を予想していたかのようにメイドに頭上から迫る。メイドはそのマリアの攻撃に気付くのが遅れたようで、一瞬動きが止まる。

 その一瞬によって、ライカの鎖がもう間近にまで迫っている。


「……申し訳ありません、シャルロット様」


 これはかわせない……二人の攻撃が同時にメイドに襲い掛かる。その瞬間、メイドは少し俯きかろうじて聞こえる声で誰かに謝罪する。恐らく、彼女の主人だろう。ただ、その謝罪が何に対する謝罪なのか……


「カッ……八ッ!!」


 そう思っていたのもつかの間。メイドは体を大きくのけぞらせ、まるでリンボーダンスでもするかのようにライカの鎖を寸前でかわすと、今度は大きく足を上げ、マリアを蹴り上げる。

 元々、突っ込むマリアのスピードがかなりあっただけに、メイドの蹴りはマリアにとっても致命傷になりえたのか、まともな受け身を取れずに地面に落ちてうずくまって動かなくなっている。


 一方でメイドは、蹴りの勢いを利用してバク転をして、瞬時に体勢を立て直す。


「えっ、ちょっ!!」


 迫りくる鎖を姿勢を低くすることでかわし、一気にライカへと迫るメイド。そのスピードはライカと比べても見劣りしないスピードで、姿勢を低くしていることもあって、まるで獣の突進だ。

 慌てて鎖と手元に戻し防御しようと鎖を引っ張っているけれど、間に合わない。


「うっ……ぐっ……」


 メイドが放った掌底突きがライカの顎に直撃する。

 真下からの突き上げるような掌底突きは、ライカの身体が宙に浮いてしまうほどの威力があった。いくらライカが小柄だからと言っても、人間一人が宙に浮くほどの威力って……


「……ふぅ」


 初めてあのメイドが反撃した。二人は今までの戦いから反撃はないと勝手に思い込んでいた。

 しかし、実際はそういうことは一切なく、ただただ、彼女の気まぐれで反撃しなかっただけ。もしかしたら、さっきの謝罪はそういうことだったのかもしれない。


「うぅっ……」


「いたた……」


 反撃を受けた二人が、ゆっくりと立ち上がる。腹に蹴りを受けたマリアが腹を抱えてかろうじて立っているのに対し、なぜか顎に掌底突きを受けたはずライカは想像以上にピンピンしている。

 腹と顎。蹴りと掌底突き。条件が違うから何とも言えないが、顎にダメージを受けてなんでマリアよりピンピンしてんだ?


「ライカ……まだ、いける?」


「うん。マリアちゃんこそ、大丈夫?」


「これが大丈夫に見えるなら……その目は節穴だぞ」


 そんなオレの疑問はどこ吹く風で、お互いに声をかけ心配し合う。


「ひとまず、礼は言っておく。助かった」


「いえいえ、お気になさらず♪」


「それなら、遠慮なく……アレ、どうする?」


「う~ん……そもそも、何で戦ってるの?」


 そうだ。そもそもなぜマリアはこのメイドと戦っているのか。

 先頭になる直前の会話を聞いていないオレたちは、そのところがはっきりしてない。考えたくはないが、マリアの勘違いとかなら、戦う意味などない。


「……そこの」


 しかし、マリアの返事を聞く前に、メイドが二人に声をかける。


「なんだ?」


「違う……そっち」


「あたし……ですか?」


 メイドが無言で頷く。


「理由もなしに……敵意もなしで……攻撃した?」


「あなたがどういった理由でここにいて、マリアちゃんと戦っているかなんてわかりません。正直、あたしもあなたのことはよくわかりません。よくわからないから、さっき反撃を受けました。ですが、親友のマリアちゃんが戦ってる。あたしの親友がピンチだ。それだけで、戦う理由になるとあたしは思います」


メイドの質問に少しの間も考える様子も見せずにライカは答える。


「あなたにも何か理由があってここにいることでしょう。それを否定するつもりはありません。

 ですが、マリアちゃんがそれを否定するのであれば、あたしもそれを否定する。マリアちゃんが、それに抗い、戦うと決めたのであれば、あたしも戦う。それだけの話です」


ライカが胸に手を当てながら、一言一句を噛みしめながら、口にする。


「……それが間違いだったとしても?」


「間違いかどうかなんて、あたしにはわかりません。あたしにとって間違いだったとしても、マリアちゃんにとってはそれが正解かも知れません。わからないからこそ、あたしは、あたしの親友を信じます」


「……………………」


「戦うとあたしが決めた。強くあるとあたしが決めた。親友を信じると、あたしがそう決めた。であるなら、あたしはそれを曲げない。人に“戦え”“強くあれ”とあたしが言ったのに、あたしがそれを守れなかったら、かっこ悪いじゃないですか」


ライカが笑う。


「……つまらない」


しかし、それを聞いたメイドは、戦闘中でさえ無表情だった顔に怒りの感情を浮かべながら、そう答えた。


「言ってしまえば、あたしの意地ですし。人によってはそう思うかもしれませんね」


それを見たライカはあっけからんと、メイドの否定を切り捨てた。


「……お前は……そいつを……人間を信用するのか?」


「人間とかそうじゃないかなんて関係ないと思います。あたしはマリアちゃんだからこそ信用してるんです」


「時間……無駄にした」


「あなたは……なぜそこまで人間を憎むんですか?」


「お前……関係ない。死霊族……人間の街で生きてる……おかしい」


死霊族。メイドの口から新しいワードが不意に飛び出す。


「ありゃ、バレてましたか」


そして、ライカもそれを否定しない。


「顎を強く打った……でも、気絶しなかった。気絶しなくても……しばらく、動けなくなるはず……でも動いてる。あと……軽かった。死霊族……血、流れてないって聞く」


「たったそれだけで、見抜くなんてお見事です」


“死”というだけあって、もうすでに死んでいる……とかか?


オレの勝手なイメージだが、いわゆるゾンビみたいなものなのかもしれない。すでに一度死んでいるから痛覚がない。血が流れてないから、ナイフが刺さっても血が流れ出てこなかった。

そう考えたら、あのときレオスがいとも簡単に起き上がってきたのも納得のいく。


「わけ……ない」


「そんな機工族のあなたにご褒美……とは言いませんが、ひとつだけ」


「……なに?」


「あたしがこの町に住んでいる理由。聞きたがってましたよね」


「…………」


「ここには、あたしの親友が住んでいる。あたしの恩人が住んでいる。ほっとけない人が住んでいる。それだけです」


「あっそ……興味ない」


「人間があなたに何をしたのか知りません。ですが、それだけが人間ではありません。もう少し、いろんな世界を見てみてはどうですか?」


メイドは視線を落とし、話を切り上げようとするが、ライカがさらに言葉を続ける。


「人生の先輩からのささやかな助言です」


「……うるさい」


 今度はメイドの方から切りかかる。

 ライカに掌底を当てようとするが、ライカは軽くかわす。さすがに不意打ちでもなければ、簡単には当たらない。

 ライカも鎖を使って反撃する。両腕から伸びている鎖を自在に操って攻撃する。

 もちろんマリアも見ているだけじゃない。よれよれの身体を気力で奮い立たせて、再び高速機動を始める。


 メイドも、マリアも、ライカも、誰も一歩も引かない。


 ライカも鎖を振り回しているようにしか見えないが、鎖どうしが絡まることも、誤って一緒に戦うマリアを攻撃することもない。すべての攻撃がメイドを攻撃しようと飛んで行く。一手、一手が確実にメイドに向って行く。


 マリアは、相手をしとめるというよりメイドを攪乱しようとする動きをしている。ライカの鎖を避けながら、時折攻撃をしたりしている。先ほどよりかは消極的に見えるが、その分ライカの攻撃がある。マリアがメイドの動きを牽制して、ライカがとどめを刺す。何かを言ったわけではなく、こんな連携をして見せるということは、昔から何度も一緒に戦った経験があるんだろう。


 レオスはこんな戦いに混じって何をしようとするのだろうか。オレの身体を使って何を……


「さて、と……そろそろ俺も行くか」


 そう言って、物陰からゆっくりと出る。


 むしろ、ここまでしているのに、一向に攻撃が当たる気配がないこのメイドの方が異常だ。


「頼んだよ、ユー……じゃなかった。レオス」


「おてんば娘に応援される日が来るとはな……明日は吹雪か」


「ルナボアに雪は降らないよ」


「それもそうか」


「いくぜ、あんちゃん……ちょっとの間、身体、借りるぜ」


「“バレット・ディ・フリーズ”」


 レオスは、オレの口を使って呪文を唱える。呪文を唱えるのと同時に、少し気持ち悪さが増す。気力を使って吐き気を我慢していたのに、それを吸い取られた感覚だ。とはいえ、まだ全然耐えられるレベルなのは救いか。


 ただ、その多少の気持ち悪さの代わりと言わんばかりに、右手の先に冷たい何かが流れていった。その何かはそこで止まらず手のひら、指先から、淡く薄い水色の光を放ちながらあふれ出る。

 オレの手を離れたその光は、次第に周囲の熱を奪っていく。熱を奪われた周囲の空気は、指先へと集まり、そこに豆粒くらいの大きさの氷のつぶて……氷の弾丸が出来上がる。


「よし……」


 各指にひとつ、計五つの氷の弾丸が、オレの指先に浮いている状態だ。

 その様子を見たレオスは、改めて目の前の戦闘へ眼を向ける。


 ライカが戦闘に加わり、こちらの攻撃の層が厚くなったとはいえ、その代わりに、メイドも攻撃するようになった。

 ライカの参戦によって、戦況が良くなるかと思っていたが、そういうわけもなく、戦況は変わらなかった。


 そんな戦場に、オレの中に入ったレオスが指先に出来た氷のつぶてを投擲する。

 氷のつぶては、その大きさも相まってまるで弾丸のように飛んで行く。


 銃と違って、弾速はない。飛んで行く氷のつぶては目で追えるほどのスピードしかない。そこで駆けるマリアに比べたら、比べるのも悲しくなるくらいのスピードだ。

 しかし、銃と違って、発砲音……発射音はない。当然だ。これは投擲だ。音なんて出るわけがない。発射音がなく、それが弾丸ほどの大きさしかないとなると、その隠密性はかなり高い。


 誰にも邪魔されることなく、メイドにすら気付かれずに、氷の弾丸はメイドに飛んで行き、その一つがメイドのこめかみに直撃する。



 一瞬、ぐらついたメイドは、一瞬動きを止める。その隙をついてマリアが切りかかるが、それすらサラッとかわして見せるメイド。息をつく間もなくライカの鎖による攻撃が襲いかかった。

 さすがに少ない動きでかわすことが出来なかったのか、メイドはオレやマリア、ライカを視界に収めることが出来る位置へと大きく飛びのいた。


 初めて攻撃が当たった喜びよりも、ここまでしてやっと一撃という徒労感がオレを襲う。

 しかし……


「おっ……一発目で当たるとは思ってなかった」


 その攻撃を放ったレオス本人は、そんなことを口にしていた。

誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。



次回投稿は、7/26の18時頃を予定してます!

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