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2章 11話 二人のレオス

 オレの意識が飛んで、どれだけの時間がたったんだろう。数分、数時間……いや、もしかしたら数秒かも知れない。

 今回に限って言えば、すぐに後者が正解だとわかる。未だに、誰かがものすごい勢いで飛び回る音……マリアが戦っている音が聞こえるからだ。

 意識が戻ったはいいが、目が開かない。そう思った矢先、意識もしてないのに目が開き、目の前の光景を映し出す。

 青空だ。透き通った青空に白い雲。背中の感触が固い路地じゃなくて草や土であれば、焼け焦げた臭いがしなければ、別の感想を抱いたかもしれない。


 そんな感覚が、オレの意識を数秒前に巻き戻させる。確か、レオスに何かをされて……


「……気がついたのかな?」


 そんなオレの思考を遮るようにアリアがオレの顔をのぞき込んで話しかけてくる。


「あぁ」


 あれ……?


「キミのそれ、初めて見たけどそうやってるんだ」


「まぁ……方法はその時々だな。あまり見んなよ。見せもんじゃねぇんだ」


 何でだ?


「まったく、他に方法がないとはいえ、何の相談もなしにこんなことしないでほしいんだけど」


「仕方ねぇだろ、緊急事態だ。それよりも、最初見た時から、素人くせぇとは思ってたけどよ。本当に全くの素人だな。

 筋肉は……まぁそこそこ。剣士としてやっていくならもうちょい……まぁ、光魔法が使えるなら問題ないとは思うが、どこまで使えるか次第だな。

 魔力の方は……使った様子がねぇんだが、おてんば娘の新しい弟子ってわけじゃねぇのか?」


 オレの口が文字通り勝手に動く。オレの意思に反して、勝手にしゃべりはじめる。手を握ったり、力を籠めたり、緩めたり、広げたり……口だけじゃない。オレの身体が、オレの意思とは関わりなく勝手に動く。それはまるで、オレの身体がオレのモノじゃなくなったかのような感覚。

 正直、かなり気持ち悪くて不気味だ。気が狂いそうになる。どうにかしたいのは山々だが身体が言うことを聞かない。


 そして、頼りのアリアはそれに気づいていない……わけじゃなさそうだ。この不思議な出来事に気付いているのに、何の問題もないと判断しているように見える。


「ボクは何もしてない。どっちかというと、マリアのほうがユート君に魔法を教えてるよ」


「へぇ、あのマリアが……どういう風の吹き回しだ?」


 再びオレが意識してないのに、身体が勝手に動き出す。今度は体を起こし、軽く屈伸をしてみせる。


 身体が起きたことで、マリアとメイドの戦いが再び視界に入る。

 未だにその状況は変わりなく、いつまでもその戦闘が続くようにすら感じる。


「さぁね。昔のこともある程度話してるみたいだし、マリアにも思うところがあるんじゃないかな」


「そんなもんかねぇ……」


 そして、いつまでも続くような感覚を抱いたのは、マリアの戦闘だけじゃない。オレの身体の方も延々と勝手に動く。

 もう何度目になるのかもわからない、オレの意思とは別に動く身体。何度あがこうとしても自由が利かない。


「気になるなら、すべて片付いてから本人に聞いてみたらどうだい?」


「それもそうか」


 相も変わらず、オレの意思とは別に話し続けるオレの口。そんな口とアリアが会話が出来ている意味も分からない。理屈もわからない。気持ち悪い。吐きそうだ。こんなのがいつまで続くんだろうか……気が狂いそうだ。


「えっと……こほん」


 そんなこと思っていると、オレの口が咳払いをして誰かに話し始める。


「そろそろ目が覚める頃だと思うから、一応言っておくぞ、あんちゃん」


 虚空に話しかけるその声はオレのモノだが……その口調には聞き覚えがあった。今思えば、さっきからの会話に、その口調の一端が垣間見える。


「今は緊急事態だから、俺の固有魔術で体を動かしてる。細かい説明は後だ。どうせ抵抗出来ねぇから、黙って俺に身体を預けてろ」


「その身体はユート君のものなんだから、傷つけないでよ」


「なに、死にはしねぇよ‥…多分な」


「多分って……」


「まぁ見てな……俺が“銀龍の拳”リーダーのノー・フェイスってところを、あのメイドにも、あんちゃんにも、見せつけてやるよ」


 そして、その言葉でオレの疑問は一瞬にして解決する。


 “銀龍の拳”リーダーのノー・フェイス


 ネーミングセンスの欠片もないその名を名乗った人物は、オレの知る限り一人しかいない。オレに何かをした下手人で、意識が戻ってから未だに姿を見せてないレオス、たった一人だ。


 今、オレの身体を動かしているのが、レオスだとすれば、さっきの謎の行動に全て合点がいく。

 手をかざして何かしたのは、レオス自身の固有魔術を行使する条件みたいなもので、オレの身体が動かせないのは、その固有魔術にオレがかかっているから。

 レオスの固有魔術があのメイドに効かないのは、この固有魔術自体がデバフ……状態異常に分類されるから。魔術が効かなかったから、すぐにあのメイドが機工族ということが、レオスにはすぐにわかった。


 その上で、目前の問題であるあのメイドをどうにかするためにレオスの子供の身体ではどうにもできなかったらから、この場で一番身体の大きいオレの身体を使って何かをしようといったところだろう。


「さてと……準備はいいか?」


 何となく、事情が察せられたところで、再びオレの口からオレじゃない言葉が発せられる。虚空へではなく、背後にいる誰か……


「うん」


 その言葉に反応して、誰かが返事をする。その声はレオスのものだが……もしその声の主がレオスなら、今喋ったレオス、返事をしたレオス。レオスが二人いるというおかしな現象が起きている。

 背後を見て状況を確認したいが、生憎身体の自由が今のオレにはない。相も変わらず、気持ち悪いし、吐きそうだ。ただ、状況が理解できているおかげで、気が狂いそうになることはないが、この感覚に慣れることはないだろう。


 そんなこと考えていると、珍しくオレの意思を飲んだように、オレ身体が後ろへ向く。


 そこにいたのは、ぼろい服の小汚い子供。まぎれもなくレオスのはずだが、雰囲気がまるでさっきとは違う。

 重力に逆らわず、ブランと垂らした腕。手枷は相変わらず手首についているが、そこから伸びて腕に絡みついていたはずの鎖は、いつの間にか解け、レオスが体を動かす度にジャラジャラと地面を擦っている。

 そして、さっきまで顔を隠していた前髪が、ちょうど真ん中で分けられレオスの顔を明らかにする。広いおでこの下にある目は、半分くらいしか開いておらず、まるで寝起きのような気だるげな顔をしている。


「久しぶりだね、レオス。いや……」

誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回更新は、7/24の18時頃の予定しています。

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